いつまでも、そばにいると、思ってた

大学1年と2年の間はまだ
専門課程を学ぶ事はなく、
普通に地理やら歴史やら体育やらの授業があった。

今日はいきなり1コマ目から「古文」の授業だった。

100くらい入る講堂の後ろの端のほうに目立たないように座った。

なんせ昨晩の叫び声と奇妙な音のせいでろくに眠っていなかった。

しかも教科書も買えてないから、よくわからないし……

とにかく出席しとけば、なんとかなるだろうと考えて、前の席の人の影に隠れるようにして頭を伏せた。

授業が始まり、数分たった頃
誰かがぼくの左ひじのくぼみを
指でつんつん、つつくのを感じた。

眉間にシワを寄せ、怪訝そうな表情で
顔を上げて、隣を見た。

ATMの彼女だった。

彼女は満面の笑みを浮かべ、ぼくを見ていた。

驚いて、言葉が出なかった。

彼女は小さな声で「昨日はありがとう」とぼくの耳元でささやいた。

ぼくは無言で軽く頭を下げた。

彼女は自分のカバンから一枚の封筒を取り出して、スッとぼくの手元に差し出した。

ぼくは「待ってました!」と言いたがったが、「ああ……」とだけ、思い出したかのように言って、その封筒をズボンのポケットに無造作にねじ込んだ。

「ごめんなさい」

「何が?」

ぼくは眠たさを装いながら、素っ気なく答えた。

「教科書買えなかったんじゃない?」

彼女の言葉は図星だった。
でも、そうだとも言えなかった。

「どうせ授業寝てるから大丈夫」

ぼくはそう言って再び顔を自分の組んだ腕の中に伏して眠るフリをした。

「優しいんだね……」

彼女は独り言のように、ポツリとつぶやくのが聞こえた。