「珍しいね、東条くんがほたるに声をかけないなんて」


そんなさなちゃんの訝しむ声に、情けなくも、胸がキュッと切なく軋んだ。

普段の私なら、さっき自問自答して解決してた。

でも、今日はいつもと違うことが、こんなにも不安に感じる。

だって、昨日、東条くんは私を好きだって言ってくれた。

恥ずかしいのかなとも思うけど、どうしてだろう……それにしては、彼の横顔が普段と何の違いもなくて、いつも通りの彼が、こんなにも私を不安にさせたのは初めてだった。


「……声、かけてくる、ね」


震えてしまった声を、無理矢理作った笑顔でごまかした。

楽しそうな会話を中断するのは忍びなかった。でも、声をかけずにはいられなかった。

だから、思い切って声をかけた。


「東条くん、おはよう」


思ったよりも大きな声が出て、東条くんも、もう1人の男子も驚いた顔をして私を見た。


「おー、結城、おは。てか、お前声でかいよ」


もう1人の男子、外間英輔(そとま えいすけ)くんが、笑いながら言った。


「あ、ごめん。えっと、」


外間くんにごめんと謝りつつ、私は東条くんへと視線を向ける。

ゆっくりと顔を上げた東条くんの目は、私を一瞥して「……結城さん?おはよう」とだけ言うと、再び外間くんへ視線を戻した。

まるで、もう用はないとでもいうように。

あれ?

って、おかしいなって思ったけれど、それ以上その場にはいられなかった。

だって、彼の全身が私を拒絶しているように見えた。

今までどんな時でも、彼は私が声をかけた時は、手を止めて、私を見て、笑顔を返してくれていた。

今の彼は、そんな反応は一切見せず、外間君との会話に戻って楽しそうに話している。

私、もしかして、東条くんを怒らせちゃったのかな?

昨日、すぐ返事をしなかったから?

あんな冷たい態度させてしまうほど、私は彼を怒らせてしまったんだろか?