「それでは、次のニュースです。H県S市で女子高生が五日ほど前から行方不明となっています」


アナウンサーの言葉と共に、娘の写真が流される。


近頃寝ていない影響で、視界がぼやける。


「これは誘拐事件ですかね」
「目撃情報もないそうで、早く見つかって欲しいですね」


本当に心配をしているのかわからないコメンテーターがそれなりの言葉を並べる。


すると、チャイムが鳴った。
外が騒がしいのはわかっていたが、時間も考えないのか。


「すみません、お話をお聞かせください!」
「行方不明の娘さんについて、何かコメントを!」


ドアを開けてもいないのに聞こえてくる声。
容赦ない攻撃に、耳を塞ぎたくなる。


それと同時に、後悔した。


自分の仕事に誇りを持っていたが、自分の努力がここまで人を追い込むものだとは知らなかった。


他人の人生、心を土足で踏み荒らし。
世間が飽きてきたら別の話題へ。


改めて考えると、かつての自分は心をなくしていたのではないかと思う。
自分の仕事のせいで、どれだけ娘を苦しめていたのだろう。


今さらと思われても仕方のない後悔に囚われる。


「すみません。警察です」


騒がしい取材陣の中から、そんな声が聞こえた。
警察の人だけを家の中に入れる。


「外、大変なことになりましたね」
「ええ……」


玄関先で話をすることは不可能で、リビングに通す。
お茶を出す気力がなかったが、気を使われたのか、お気になさらず、と言われてしまった。


「娘さんの行方ですが、本当に心当たりがありませんか?」
「はい……恥ずかしながら、父一人子一人で、仕事上娘を一人にすることが多く……誰と仲がいいのか、何が好きなのか……そういうことを、全く知らないんです」


仕事を言い訳にするあたりかっこ悪いのは自覚している。
しかし、事実なのだ。


「そうですか……どの防犯カメラにも映っていませんし……もう少し聞き込みをしてみます。もし犯人から連絡があれば、すぐに知らせてください」


そして警察の人は帰っていった。


また一人になると、テレビの音がよく耳に入る。


「めちゃくちゃいい子です」
「いつも笑顔で、楽しそうで……」
「早く会いたいです」


娘の同級生がインタビューに答えている映像だった。


娘の何を知っている。
娘を利用して、テレビに出たいだけじゃないのか。


そう思ったが、娘のことがわかっていないのは、俺も同じだ。


「犯人は抵抗しないであろう子を誘拐したんでしょう。この写真を見たところ、控えめな笑顔に見えますから」


うるさい、黙れ。


「では、ここで専門家の意見を聞いてみましょう。今回の事件、どう見ますか?」


司会者が流れるように話を振る。
まるで、台本しか頭に入っていないように思わせる。


ただただニュースをお知らせするだけだ。
なんの心配もしていない。


「今回は誘拐されているところ、運んでいるところ、隠しているところ。どれも、目撃情報がありません。犯人は、かなり準備をしていたのかもしれません。そうなると、彼女をストーカーしていた可能性も考えられます」


ただの憶測だとわかっている。
だが、もしかしたら娘がそんな恐怖に怯えていたのかもしれないと思うと、ゾッとする。


身代金要求が未だにないあたりが、その仮説が濃厚であることを裏付けている。


「では、もう一度彼女が誘拐されたときのことを整理してみましょう」


そうして、何度聞いたかわからない娘の誘拐されたときの状況が説明された。
正直聞いていられなくて、テレビを切った。