赤川さんからの二つの宿題の答えに気づいて、慌てて学校へ引き返す途中、青葉に出会うと二人で学校に戻った。運よく他のみんなはまだ学校に残っていて、加瀬くんの部活が終わると、全員が部室に集まった。

 そこで僕の考えた旧校舎に侵入する方法を伝えると、少しの戸惑いがあったあと、すぐにこの方法でいこうと決定した。もう一度旧校舎を使って部活ができる。みんなはその事実に沸き上がり、やがて、話はその時の企画発表者を決める流れになった。

 切り出したのは、小清水先生だった。

「さて。それじゃあ、誰か企画をやりたいやつはいるか?」
「私、やりたい。この前は見ているだけだったから、やらせてほしい」

 間髪入れずに名乗りを上げたのは青葉だった。絶対に譲れないというような力強い声に、全員が圧倒されていた。もちろん、異論の声なんて上がるわけがない。

「分かった。もう一人はどうする?」

 小清水先生が訊いても、すぐに青葉に続こうとする声はない。誰が行くんだというように、みんなはそれぞれに目を見合わせる。

 その中で僕は、ピン、と高く手を挙げて言った。

「僕も、やらせてほしいです」

 ここで僕が手を挙げるなんて、みんなは想像もしていなかったんだと思う。驚いたように、一斉に視線が向いた。

 今このタイミングで手を挙げるということは、青葉に戦いを挑むということだ。みんなそれを分かっているからこその驚きで、もちろん僕もそれを分かって手を挙げていた。

 僕はただじっと青葉の方を向いて、顔を逸らさなかった。僕の宣言に一番驚いていたのは青葉だったかもしれない。大きく目を見開いて、その中の瞳が揺れていた。間違いなく、動揺していた。

「本気なの……?」

 震えるような声で青葉が言った。

「僕が冗談や駆け引きでそんな嘘を吐くはずがないって、青葉が一番よく知っているはずだよ」

 黙っている青葉にさらに続ける。

「もう終わりにしようよ。僕たちは前に進まないと」

 青葉はうつむくように顔を伏せて、

「……やだ。私はまだ終わらせたくないし、先になんて進みたくない」
「僕はもうやめにするよ。青葉に憧れるだけの自分はこれで終わらせる」

 とっさに顔を上げた青葉の顔は悲痛だった。

「それって、どういう……」
「もし次の部活で僕が勝ったら、青葉にも先に進んで欲しい。立ち止まるのはもう、やめにして欲しい」

 それは賭けだった。青葉を救い出すためには、僕が青葉を乗り越えなければいけないと思ったから。一番近くで憧れを押し付け続けた僕が青葉を超えることで、彼女を孤独から救いたかった。そうすればきっと青春部に依存する必要もなくなって、前を向いていけると思った。

 別に勝算があったわけじゃない。ただ、これが不器用な僕にできる唯一の方法だった。

 青葉はまた驚いたあと、燃える視線で見つめ返した。

「分かった。もし負けたらもう部活は諦める。……けど、私は絶対に負けないから」

 青葉の言葉には絶対の自信がこもっていた。絶対に負けたくない、絶対に負けるはずがない、と。

 思わず呑み込まれてしまいそうになるその視線からは目をそらさない。

 僕だって、絶対に負けてなんてやるものか。