それをきっかけに、青葉との関係は一変してしまった。

 なんとなくお互い避けるみたいになって、今までは当たり前だった一緒の登下校もできていない。学校ですれ違うことがあっても、お互いに気まずそうに目を逸らすだけだ。明らかな距離ができていた。

 数日が経ったこの日も、放課後の時間になると同時に一人で帰路についていた。玄関で靴を履き替えて、正門へと向かって歩く。その途中、ふと僕の足は正門とは別の方へと向きを変えていた。足が向かう先は弓道場だ。すがるような思いだった。

 弓道場の手前には相変わらず、加瀬くんを見つめる数人の女子がいた。熱い視線を送りながら、その一挙手一投足を見逃すまいとしている。それは、加瀬くんの全国優勝を信じて疑わない目だった。そして、凛とした表情で弓を引くその裏側に苦悩を抱えていることなんて、気づこうともしない目だ。

 弓を引き、矢を放つ。加瀬くんのその一連の動作は洗練されていて美しい。だけど、背筋をピンと伸ばした立ち姿からは、肌に刺さるような緊張感があふれている。赤川さんと二人で見に来た時と同じか、それ以上だ。総体まではもう半月を切っている。無理もない。

 僕はこんなところに立ち寄って、いったい何がしたかったんだろう。練習中の邪魔なんてできるはずがないのに。そんなこと、分かりきっていたはずなのに。

 僕は加瀬くんが弓を放つのと同時に、弓道場を後にして正門へと続く道へ戻った。最後に放たれたその弓矢の軌道は、少しだけブレていたような気がした。