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それから数日が経ち、いよいよ文化祭の前日となった。
文化祭の前日は半日で授業が終わり、午後の時間を丸ごと使って翌日に向けた準備に取り掛かる。昼休みの時間の終わりとともに、教室の中の椅子や机といった備品は、必要なものだけを除いて一斉に撤去された。学校中が一段と慌ただしくなり、一気に文化祭の近づきを感じさせるような雰囲気が漂いだす。
準備は段取りの通りに順調に進んでいき、事前に準備をしておいたパーツで華やかに装飾を施していく。日が暮れ始めた頃には、何の変哲も無い普通の教室が、思い描いた通り、童話に出てくるお城の一室へと姿を変えていた。
完成のイメージが見え始めた頃にはだんだんと必要な人手も減り始め、本来は放課後の時間に入ったこともあって、教室に残っているクラスメイトの数はずいぶんと減っていた。
その中に当然、青葉や加瀬くんの姿はない。もう最後の確認を残すだけの段階になった時、教室に残っていたのは、僕と山本くんと学級委員の女子とその友人の二人だけだった。
「結局、こんな時間になっちまったな」
テーブルの飾り付けを終えた山本くんが、伸びをしながら言った。
「ごめんね、こんな時間まで付き合わせちゃって」
「いいっていいって。俺も久しぶりに勉強以外に打ち込めていい息抜きになったし」
「ありがとう。無理やり付き合わせちゃったんじゃないかって心配だったから、そう言ってくれると嬉しいよ」
僕も山本くんに倣って伸びをしてから、自分たちの努力の成果であるこの教室を見渡した。どこからどう見ても、テーマパークさながらのお城の一室になっている。
最近では部活で夜遅くまで残ることも増えたけど、自分たちが普段から使っているこの校舎にこれほど遅くまで残るのは初めてだ。達成感と感慨深さが、充足感となって胸に広がる。
と、調理用の機材の最後の確認をしていた、学級委員の朝倉さんが振り向いた。
「古河くんも山本くんもありがとね。係じゃないのに、こんな時間まで残らせちゃって」
「ううん、僕がやりたかっただけだから」
「でも、まさか古河くんが手伝ってくれるとは思わなかったよ。こういうクラスのこととかって、あんまり頑張らないタイプかと思ってた」
つい最近も聞いた言葉に苦笑する。僕はみんなからそんな風に思われていたらしい。そして、数ヶ月前までならそれは合っていた。
「確かに、少し前までの僕だったら、適当な言い訳でもして逃げてたかもね。でも、最近は少し自分に自信が持てるようになったんだ」
「うん、前よりもそんな感じの顔してる」
僕は照れ臭くなって顔をそらすと、山本くんが朝倉さんに訊いた。
「それより、どう? こっちは確認終わったけど、そっちは?」
「うん、さっき終わったよ。器具も食器も全部オッケー」
その返答に、山本くんと顔を見合わせた。
「と、言うことは……」
誰かがそうつぶやくと、その声を合図に僕たち残ったメンバーは一斉に声を揃えて、
「終わったー!」
作業に没頭して明かりをつけ忘れていた教室は、いつのまにか沈んだ夕日の明かりがなくなり、薄暗闇に染まっていた。そんなことにも気づかず僕たちは、この教室に弾んだ声を響かせた。
それから数日が経ち、いよいよ文化祭の前日となった。
文化祭の前日は半日で授業が終わり、午後の時間を丸ごと使って翌日に向けた準備に取り掛かる。昼休みの時間の終わりとともに、教室の中の椅子や机といった備品は、必要なものだけを除いて一斉に撤去された。学校中が一段と慌ただしくなり、一気に文化祭の近づきを感じさせるような雰囲気が漂いだす。
準備は段取りの通りに順調に進んでいき、事前に準備をしておいたパーツで華やかに装飾を施していく。日が暮れ始めた頃には、何の変哲も無い普通の教室が、思い描いた通り、童話に出てくるお城の一室へと姿を変えていた。
完成のイメージが見え始めた頃にはだんだんと必要な人手も減り始め、本来は放課後の時間に入ったこともあって、教室に残っているクラスメイトの数はずいぶんと減っていた。
その中に当然、青葉や加瀬くんの姿はない。もう最後の確認を残すだけの段階になった時、教室に残っていたのは、僕と山本くんと学級委員の女子とその友人の二人だけだった。
「結局、こんな時間になっちまったな」
テーブルの飾り付けを終えた山本くんが、伸びをしながら言った。
「ごめんね、こんな時間まで付き合わせちゃって」
「いいっていいって。俺も久しぶりに勉強以外に打ち込めていい息抜きになったし」
「ありがとう。無理やり付き合わせちゃったんじゃないかって心配だったから、そう言ってくれると嬉しいよ」
僕も山本くんに倣って伸びをしてから、自分たちの努力の成果であるこの教室を見渡した。どこからどう見ても、テーマパークさながらのお城の一室になっている。
最近では部活で夜遅くまで残ることも増えたけど、自分たちが普段から使っているこの校舎にこれほど遅くまで残るのは初めてだ。達成感と感慨深さが、充足感となって胸に広がる。
と、調理用の機材の最後の確認をしていた、学級委員の朝倉さんが振り向いた。
「古河くんも山本くんもありがとね。係じゃないのに、こんな時間まで残らせちゃって」
「ううん、僕がやりたかっただけだから」
「でも、まさか古河くんが手伝ってくれるとは思わなかったよ。こういうクラスのこととかって、あんまり頑張らないタイプかと思ってた」
つい最近も聞いた言葉に苦笑する。僕はみんなからそんな風に思われていたらしい。そして、数ヶ月前までならそれは合っていた。
「確かに、少し前までの僕だったら、適当な言い訳でもして逃げてたかもね。でも、最近は少し自分に自信が持てるようになったんだ」
「うん、前よりもそんな感じの顔してる」
僕は照れ臭くなって顔をそらすと、山本くんが朝倉さんに訊いた。
「それより、どう? こっちは確認終わったけど、そっちは?」
「うん、さっき終わったよ。器具も食器も全部オッケー」
その返答に、山本くんと顔を見合わせた。
「と、言うことは……」
誰かがそうつぶやくと、その声を合図に僕たち残ったメンバーは一斉に声を揃えて、
「終わったー!」
作業に没頭して明かりをつけ忘れていた教室は、いつのまにか沈んだ夕日の明かりがなくなり、薄暗闇に染まっていた。そんなことにも気づかず僕たちは、この教室に弾んだ声を響かせた。