「達樹、今凄い顔してたよ」

「う、うるせぇ」

「あ、永倉さんも笑ってる」

「え?」

コーヤに言われて律に振り返ると、確かに右手を口元に当てて笑っていた。

律に笑われるのは微妙な気分でもあったけど……


でも、まあいいか。



どんなことがきっかけだって、律が笑っているのなら。



その後は市川さんも、少しずつだけれど律に接してくれるようになった。
今思えば、尚也にアピールする為に律に近付いてきた頃はどこかわざとらしさもあった気がするが、今はそんなこともなく、自然体の市川さんに見える。



そしてキャンプが終わる頃には……市川さんと律の距離はかなり近くなっていた。
市川さんと村田さんは元から仲が良いから、村田さんと律も自然と一緒にいるようになった。



良かったな、律。


帰りのバスの中、俺の後ろのシートで市川さんと隣同士に座る律をチラッと見ると、ちょうど目が合った。



――色々ありがとうね。


テレパシーも使っていないし、手話も使っていないけれど、そう言ってくれたような気がした。



窓の外には、雲一つない青空がどこまでも広がっている。
気温もちょうど良くて、昼飯食べた直後で腹もいっぱいで、バスに揺られながら何だか眠ってしまいそうになる。


心地良い風が吹き抜ける、爽やかな五月はもうすぐ終わる。


季節は、夏に突入しようとしていた。