「よし、何が不満なのか言ってみろ」

俺は腕を組み、どっしり構えてるような風格を見せながら律に問う。


律からの返事は、俺が想像していたものとは少し違った。



《不満なんてない……。寧ろ、ありがとう》



ありがとう?
言葉の意味が分からずに、首を傾げる。


「ごめん、何が?」

《私が悪いって言ってくれたこと》


俺は、律の言おうとしていることがまだいまいち分からなかったが、そこで律はようやく俺と目を合わせてくれた。


律は、ちょっと寂しそうな顔をしていた。



《声が出なくなってからね、さっきの先生みたいに、腫れ物扱いされることが多くて。あ、無理はないと思ってるの。家族ですら、最初は私にどう接していいかよく分からなそうだったから》

「……うん」


どう接していいか。
大事な存在だからこそ、そうやって悩むことはあると思う。


俺だって、〝あの時〟ーー。



《……だからさっき、先生が私のこと、声が出せない人だからって私のこと擁護したのが、何か嫌だった。だけど私は、否定の言葉を発することが出来ないし。

だから、達樹君が本当のことを言ってくれて嬉しかった。私のこと腫れ物扱いすることもなく、はっきりと私も悪いって言ってくれたことが……。


本当はすぐにお礼言いたかったんだけど、怒られた後だから何て言ったらいいのか分からなくて、気まずくて目も合わせられなくて……お礼言うのが今になっちゃって、ごめん》


頭に流れこんでくる律の言葉に、俺は「う、うん」と一応返事をするけれど。

本当は戸惑っていた。正直、ここしばらく忘れ掛けていたけれど、どんなに今の律と仲良くなったって〝あの時〟のことが消える訳じゃない。



それでも。
今の律と接して、今の律ともっと仲良くなりたい。
そう思うこの気持ちは、きっとこの先変わらない。