「結局、丸投げか。まあ、いいけど」

ふぅ、とひと息吐き、呟くようにそう言った。



「……な、長尾。庇ってくれて、ありが――」

「さ、行くぞ。律」

律に視線を向けてそう言ったが、何か今、市川さんと声が重なったような気がした。


「何か言った?」

「な、何も言ってないわよ! 馬鹿ッ!」

「バッ……!?」

何で急にキレてるんだ、この人⁉︎



「あーあ、早く尚也君のところ行こーっと!」

ガタン!と大きな音を立ててパイプ椅子から立ち上がると、市川さんは大股で律の前を横切り、乱暴に戸を開け、さっきの先生よりも早い足音で去っていった。


「何で馬鹿って言われたんだろ、俺」

俺の発言の、何がそんなに気に障ったのか分からない。


「まあ、いいか。ほら、お前も立てって」

声を掛けると、律は腰を上げた。
だけど、頷いたり笑ったり、いつもはしてくれるリアクションが一切なく、俺と目を合わせることもない。