「……お前こそ」

「今になって携帯部屋に忘れてきたことに気付いたから取りに戻ってきたんだけど、もしかして永倉さんをちょっぴりいじめちゃってたこと、長尾君にバレちゃったかなー?」

市川さんは何の悪びれもない様子で楽しそうに笑う。


「お前、やっていいことと悪いことがあるだろ!」

「はあ? ていうかさっきから、私のことお前って呼ばないでくれる?」

「うるせえ。律に対して何か不満でもあるのかよ?」


律が、若干困った様子で俺を見ているのが分かった。
テレパシーはさっき切れてしまったから、今、律が何を思っているのかは分からない。
でも、ここはしっかりと話をする必要がある。



「永倉さんのことは、元々ちょっと気に入らなかったんだよね。アンタ達の男子グループとばっかり話しててさ。お姫様気取りかって」

「んな訳ねーだろ。大体いつも、俺から律に話し掛けてるし」

「私はねえ、声の出ないカワイソウな永倉さんに優しくして、尚也君にアピりたかったの。分かる? 障害者にも優しい私、ってね。
けど、何か途中で疲れちゃってさー。
ていうか、ここ最近毎日声掛けてやってたんだから、うちらが花火してる間に食器洗いくらいしてくれてもいいと思うのよねー」


……勝手なことをペラペラと喋り続けるこいつに、俺の怒りもどんどん増してきた。



その時だった。



――バチンッ!




頬を叩く、乾いた音がロビーに響き渡った。




「り、つ……?」

律が、市川さんの頬を思い切りビンタしたのだ。