「それなら、やっぱうちらは他の班に入れてもらうからいいわ。じゃあねー」

ひらひらと軽く右手を振りながら、市川さんは俺達に背を向けるが、コーヤは納得いかなかったようで
「おい、今のどういうことだよ」
と、彼女達を引き止めた。


二人は足を止めてこっちに振り返ると、市川さんがまた鼻で笑いながら、口を開いた。


「学年キャンプなんかただでさえダルいのに、それを永倉さんと三日間も同じ班なんて、うちらには無理」

「それは、永倉さんが喋れないからってこと?」

「他に何かある訳?」

市川さんの言葉に、いつも温厚なコーヤが珍しく眉間に皺を寄せ、怒ったような表情になる。
そして彼女に一歩詰め寄ろうとするも、俺は慌てて席から立ち上がり、コーヤの肩を後ろから掴んでそれを阻止した。


「コーヤ、やめろって」

「何でだよ。達樹は今の聞いて、許せるのかよ」

「だからって、ここで揉め事起こしても、律が余計に嫌な思いするだろ」


そう。律はきっと、こんなことは望まない。

さっきだって、同じ班になる俺にあんな心配をしてきたくらいだ。
きっと本人も……自分が市川さんみたいな意見を持たれることは、いつだって覚悟しているのだろう。


それに、俺も……



〝あの時〟、律に酷いことをしてしまったから。
だから正直、市川さんの今の発言を責める資格は……俺にはない。