「ちなみに達樹。例の変質者は夕べ捕まったらしいぜ」

どこからかポッキーの箱を取り出してきたコーヤがそう言う。


「え? マジで?」

「ああ。さっき職員室前で尚也が先生から聞いたんだって。良かったなー、安心しただろう? よしよし」

「お前も昨日変質者怖いって言ってただろ!」

「いやいや、尻餅つくほどじゃないって。まあまあ、ポッキー二本やるから落ち着きなさい」


子どもを宥めるような口調でそう言われ、ポッキーを渡される。
何だか腹立たしいが、それ以上に楽しいと感じる。


……俺は受け取ったポッキーを右手に一本、左手に一本持ち、振り返る。

そして。



「……律っ」

俺が名前を呼び掛けると、律は少し驚いたような表情で俺を見つめる。
コーヤと尚也も、突然のことに多分驚いただろう。


……でも俺はもう、過去を引きずのはやめる。



「ポッキー、二本もらったけど一本食うか?」

俺はずっと律と話したかった。律の声が出なくても、律の笑顔が見られるだけで楽しい。だから、これからはたくさん話し掛けよう。