《どういうこと?》


「ん? 何でもない」



……高校生になって、勉強も部活もまあまあ順調で、コーヤも尚也も凄く良い奴らで、俺はそれなりに楽しい日々を送っていると思う。

だけど、その楽しさを全面に出して、大声で笑ったり、手を叩いたり……そういうことが最近は出来ていなかった。

〝あの時〟。自分のことが大嫌いになってしまったあの時から、昔みたいに感情のままに楽しむことが出来なくなった。新しいことにも興味が持てなくなって、多分、いつの間にか冷めた人間になってしまっていた。



《そういえば、中学の途中から、雰囲気変わったよね》


「もういいよ。その話は」


《昔はもう少し、明るくなかった?》


「さあな」


……何、素っ気ない態度取ってるんだ、俺。

俺が律に言うべきことは、こんなことじゃないのは分かってる。



「……あのさ、律」

律が、不思議そうに首を傾げながら、二重の大きな瞳で真っ直ぐに俺を見つめてくる。



ずっと、言えなかった。”あの時”のことをーー本当は言いたい。


苦しいけど、言いたい。



「俺、あの時――……」



だけど、そこまで言葉を発したのに続きがどうしても出てこなくて。



……だから、俺は心の中で。




(あの時は、ごめん)

そう言って、テレパシーを律に飛ばした。



……つもりだったのだが。



律は、首を傾げ続ける。
あれ? テレパシー、届いてないのか?


もう一回、同じ言葉を心の中で呟くけど、やっぱり届いていないようで。


「律、俺にテレパシー飛ばしてみて」

俺の言葉に律は頷くけれど、何も聞こえてこない。そう言えば、キーンという音も聞こえなくなっている。