「えーと、その、変な意味じゃないんだけどな! だから、その……!」

更に動揺して変な汗を掻き始める俺に、律はにこっと微笑み、


《そういえば、そんなこともあったね。懐かしい》


と答えた。


なんだろう。そんな風に、何でもないことのようにサラッと言われたら、あの時ドキドキしていたのは俺だけだったんだなあと思って、少し寂しくなってしまった。


なんて、そんなことを嘆いていても仕方がない。今は俺にとっても、律はただのクラスメイトなんだし。



「これ以上は、ここでこうして話していても、テレパシーについて分かることはないよな。そろそろ教室戻るか」


そう言って俺は、軽く背伸びをしながら立ち上がる。
背伸びをしたのは、身体をほぐしたかったから。身体をほぐしたかったのはーー律と話していて、つい緊張してしまったから。
もう好きじゃないはずなのに、緊張だなんてどうしてだろう……。律に対して気を遣っているとか、そんなことは一切無いのに。



《ありがとね》

突然、律がお礼なんて言うから、思わず「え?」と振り返る。



《昨日の夜もテレパシーで伝えたけど、私、こんな風に誰かと話すことが久し振りだから、凄く楽しいの。
テレパシー能力について探る為の約束だっていうことはちゃんと分かっているけど、ゴールデンウィークに会えるのも楽しみにしてるね》


そう言って、律はまたニコッと笑った。


さっきと違って、俺はその笑顔に、ドキン、と胸が跳ねた。


何だろう、この気持ち。

そうか、思い出したんだ。


俺は、律のこの笑顔が大好きだったから。



「……俺も楽しいよ。俺だって、こうして素の自分で誰かと会話するのは、久し振りだから」

俺がそう答えると、律は少しだけ目を見開いて、じっと俺を見つめた。