「律? 律? あれ? 返事しろ」

この状況についてまだ全く飲みこめていないが、どうやら俺が直接口にした言葉は律には届かないらしい。
心で発した言葉が、律に届いている。


《本当に……信じられない。これ、テレパシーってやつよね? 離れたところにいながら、私達、心と心で会話が出来てるってことよね?》


律の声は、耳に届くというよりは、俺の頭に直接響いてくるーーそんな感覚だ。

心と心で会話、なんてそんなメルヘンチックなものなのかは分からないが、まあ間違いではないだろう。


《何が何だか、全く理解出来ねーよ……》

どんなに律の声が頭に響いてきても、どんなにこの出来事が現実なのだと思い知らされても、戸惑が消えることはない。


……それなのに、律の声は若干弾んでいるような……?
少なくとも、俺ほど戸惑ってはいないのは明らかだ。何でだ?



《とにかく、こんなことになったきっかけを考えないとな》

そもそもきっかけがあるかどうか分からないけど、もしあるとしたら、それはきっと。


《ふたつ祈りじゃないの?》

俺が思っていたことと同じことを、律が先に言った。


さっき神社で、俺達は二人でお参りをした。
あの神社に存在する、ふたつ祈りの言い伝え。
言い伝えなんて全く信じてはいなかったけれど、まるで現実的ではない今の状況を前に、言い伝えを頑なに信じない理由も特にない。


《でもあの言い伝えって、たしか二人で同じ願いごとをしないといけないんだよな?》

律は何をお願いしたんだ? と聞いた直後にハッとする。
奇跡が起きるのは、二つの願いが一致していた時だけ。
俺の願いは、律とまた仲良くなれますようにということ……。

同じ願い事を、律もしたとは考えにくかった。

いや、でももしかしたら律もまた俺と仲良くなりたいと思ってくれていた可能性も……と思ったのだが。


《飼ってる猫の具合が悪いから、早く治りますようにって》


サラッとそう言われ、俺はガックリと肩を落とした。
いやいや、なにガッカリしてんだ、律が俺との関係なんか願う訳ないだろ。


《達樹くんは何を願ったの?》

律からそう聞かれたので俺は、


《期末テストで良い点数取れますように》

と、嘘をついた。このテレパシーに、ふたつ祈りが関係していなかったと分かった以上、嘘を吐いても問題ないと判断した。


律からは「そっか」とだけ返ってきた。
心と心で会話が出来ているらしい俺達だが、決して本心を読み解いたり、嘘を見破ったりすることは出来ず、出来ることはあくまで〝会話〟のようだ。