「あれ? 長尾さんとこの達樹くんじゃないか。久し振りだね」

店内に入るとすぐ、店長さんから声を掛けられる。
店長さんはもう結構な高齢のおじいさんで腰が曲がっているのだが、その割に歩くのが早いのは、昔から変わらない。


「こんにちは。あの……



防犯ブザーって、置いてありますか? 出来れば、女の子が持つような可愛いやつで」





*

買い物を済ませた後はそのまま帰宅し、飯を食い、風呂に入り、二階の自分の部屋に一人、こもる。ここまではいつも通りの流れだ。

普段だったら、机に向かって宿題をしたり、予習復習をしたり。
そうだ、今日は数学の宿題があるんだった。


……でも、その前に。

俺は床に置いていた通学鞄の中から、さっき文房具屋で買った防犯ブザーを取り出した。


コンパクトで、鞄につけてもジャマにならない、花の形をしたピンクの防犯ブザー。
店長さんから「何で女の子用?」と聞かれたが、クラスの女子に渡したいからです、なんて恥ずかしくて言えず、つい「親戚の女の子にプレゼントするからです。小学生です」と言ってしまった。その為、若干子供っぽいデザインの様な気がするのは否めないけど……まあ、音が鳴ればなんだっていいよな。


問題は、律にどうやってブザーを渡すのか。それを考えなくてはいけない。