そんなことを考えながら、大通りとは大違いに街灯の無い、真っ暗な通りを一人歩いていく。


すると突然背後から、


「ねえ、君」


と、知らない男の声が聞こえた。
そして……振り向く間も無く、ガッと肩を掴まれた。


「うわっ⁉︎」

例の変質者だと思い、俺は驚いて声を上げてその手を振り払うが、足が滑って尻餅をついてしまった。


しかし。


「君、大丈夫かい?」

そこにいた男の人は、心配そうな顔をして俺にそう尋ねてくる。メガネをかけた、スーツ姿の四十代くらいの細身の男性で、


「驚かせたかな? 西山書店という本屋さんの場所を書こうと思って話し掛けたんだけど」



……本屋の、場所。

変質者じゃ、なかった。


恥ずかしさで、自分の顔がカーッと熱を帯びていくのを感じる。


「ほっ、本屋は大通りなので、この道をまっすぐ戻って右に曲がった所の道沿いです! では!」

さっき律と別れた時のように、必要なことを一方的に言って、また走って逃げ出した。


俺、さっきから本当にかっこ悪い!


いや、でもマジで怖かった! 絶対変質者だと思った!


……男の俺ですらこんな気持ちになるんだから、もし女の子が変質者に声を掛けられたら、もっと怖い思いをするのだろう。怖過ぎて、抵抗なんて出来ないのだろう。


ましてや律は、悲鳴をあげることもできなくて……。



狭い道を突き当たりまで歩いていくと、大通り程ではないけれど、それなりに明るい道に出て、ところどころに店もある。
ここを右に曲がれば俺の家がある。
だけど今日は、左に曲がり、俺が子供頃から経営している古ぼけた文房具屋の前で立ち止まった。
先程お賽銭で小銭を減らした財布の中身を確認して、何とかギリギリ足りそうなことを確認すると、店内に入った。