この神社には、地元では有名な言い伝え、ってやつがある。


〝ふたつ祈り〟。
それがこの神社の言い伝えの名前だ。



一人ではなく、一緒にいる二人で同時に神様に祈願をし、その二人の願いが同じだった場合、奇跡が起こるとか起こらないとか……なんとか。


願いの内容を二人で予め合わせてくると意味がないらしいけど、まあ、所詮ただの言い伝え。奇跡なんて起こる訳ない。



律が、ひと足先に階段を上りきった。

鳥居をくぐる前に丁寧に一礼をしてから参道に入っていく律。
真ん中ではなく、不自然なくらいに端っこを歩いて神殿へと向かっていく。

なんだっけ、参道の真ん中は神様が通る場所だから歩いちゃいけないんだっけ。
一礼とか、歩く場所とか、正直ほとんど意識したことはなかったけど、目の前を歩いていく律がそうやって正しい参拝方法を意識しているので、俺も同じ様に一礼をし、参道の端を歩き、神殿へと向かっていく。


こんなこと言ったらバチが当たりそうだけど、暗闇の中で厳格にそびえ立つ神殿は、何だかちょっと不気味に思えた。


俺の隣で、律が鞄の中から財布を取り出す。ああ、お賽銭か。
うーん、春休みに新しいバッシュ買ったからあんまり金ないんだよな。でも、俺だけ賽銭入れないとか、律にケチな奴とか思われそうだ。
今はもう、律に対する恋愛感情はないのだから、そう思われてもいいけど……。


というわけで、俺も鞄の中の財布から小銭を取り出す。律がいくら入れるか分からないけど、五十円入れておけばケチとは思われないだろう。


律と一緒に賽銭箱に小銭を落とせば、チャリン、という音がやけに響く。


財布を鞄にしまうと、律が鈴の緒を握った。だけど鳴らすことなく、俺に視線を向けてくる。