俺と律の間に、ぴゅぅ……っと冷たい風が吹き抜ける。


「何言ってるんだよ。テレパシーが使えなくなったって、離れていく訳ないじゃん」


律をフォローするつもりではなく、単純にそうとしか思えなかったから。
俺は律から離れない。誓っている。

だけど律は……。


《そんなの、分からないじゃん!》


……律の声は、実際には当然聞こえないのだけれど、荒げた声というのか、頭に響くのはそういう感情的な声だった。



《達樹君は優しいから絶対に否定してくれるだろうけど、私はやっぱり自信がない。
私、達樹君の彼女なのに……会話も出来ない彼女なんて……そんなの彼女の意味ないじゃん。
達樹君が良くても私は嫌なの……》


言葉の最後の方で、律が泣いていることに気付いた。

今日の律は、よく泣く。
普段の律は、もっと気が強くて、たくさん笑う子なのに。

……でも本当は、いつでも不安でいっぱいで、こんな風に泣きたくてたまらなかったのかもしれない。
キャンプの班決めで不安になっていた時とか、そのキャンプで千花と喧嘩した時とか、体育祭に出られなかった時とか、いつだって。



――大丈夫だよ。

言葉で伝えるのは簡単だった。

だけど、それでは律は納得しないだろうと思ったから。



だから俺は、



「律。ちょっと顔上げて、俺のこと見てくれる?」

「泣き顔ブスだから見せたくない」

「ブスじゃないし、ブスでもいいから、ちょっとだけ見てくれる?」

何とか説得し、俺は律の顔を上げさせる。


律がこちらに顔を向けたのを確認してから、俺は律の前で、両手を動かした。