--俺は、中学二年生の時に律のことを好きになった。超能力がどうとか言われた、あの日直の日だ。
初恋だし、恋愛に対して積極的に動けるタイプでもなかったけど、律とは元々会話も多かったから、それとなく距離を縮めていたつもりだ。
結局告白は出来なかったから、当時の律が俺のことをどう思っていたかは分からないけど、仲は良かったと思う。
だけどその年の冬、律が喉の病気で入院することになった。
急な発症、というよりは、少し前から喉に異常はあったのだと、後から誰かに聞いた。俺はそんなことは一切知らなかった。律は元気の塊の様な人間だと思っていた。
律は、入院した。その間に、手術もしたという。
律がいないまま先輩の卒業式は終わり、校内から見える桜の木は満開になった。その桜が散っても、律はまだ戻ってこなかった。
ゴールデンウィークが明けた頃、律はクラスに戻って来られた。退院して、また学校に通えるようになったのだ。
しかし、律から”声”は奪われていた。
当時のクラスメイトは皆良い奴で――今のクラスメイトが悪い奴らだという訳ではないけれど--声を失った律を腫れ物扱いするような人はいなかった。皆、元々律のことが大好きだったからだ。
だけど高校に入学して、〝声が出ない状態で一から友達を作る”というのは、難しいことなのかもしれない。
でも、最近楽しいか? 悩みはないか?、なんて偉そうなことは聞き辛い……。