冬に比べれば日が長くなったとはいえ、十九時過ぎともなれば、辺りは暗い。
こんな暗い道を女子一人で歩くのはやっぱり危険なので、一緒に帰って正解だったと思う。
「ていうか律、いつもこんな時間に帰ってるのか?」
心配になってそう尋ねると、律はさっきみたいに携帯に文章を打ち始め、打ち終わった画面を俺に見せてくる。
【ここ数日はそうかな。今日みたいに図書館で過ごしてる。】
「本、好きなんだっけ?」
【今までは活字なんてほとんど読んだことなかったけど、悪くはないね。まっすぐ家に帰ってもやることないし。】
やることないなら部活に入れば? と一瞬言い掛け、慌てて口を噤んだ。
入りたいけど、入れないのかもしれない。
声が出なくても活動できる部活はあるかもしれないけど、声が出ないというハンデは、律から入部の勇気を削いでいるのかもしれない。
……少なくとも、律が本当にやりたいことはバスケのはずだ。だけどバスケはさすがに出来ないはず。
それなのに、軽々しく〝部活入れば?〟なんて言えないよな……。
それにしても、こんな風に律と話していると、まるで中学時代に戻ったみたいだ。
普通の会話ではない。俺の言葉と、律の文章という不思議なやり取り。
だけど、思ったより違和感はない。少なくとも、俺的には。
でも、律は大変かもな。急いで文章打たないといけないし。そういえば、中学の時もクラスメイト達とこんな風に携帯の画面見せて会話してたな。
すると律は、新たな画面を俺に見せてきた。
【ごめん、文章打ってる間、変に待たせちゃって。】
その文章に、俺は少し驚く。
「え? 別にいいよ。全く気にしてないって。寧ろ、お前が大変じゃないのかってちょうど思ってたとこ。普段からそうやって人と会話するの? 家族とも?」
すると律は再び携帯に文章を打って。
【家族には、言いたいことは手話で伝える。家族も覚えてくれたから。】
あー、なるほど。手話。確かにその方が、携帯の画面に文章打つより律は楽だよな。
手話ね……俺は全然分からないけど……。