この声、聞こえますか?

律が言葉を話せないというのを知っているからか、庄田さんは俺に顔を向けて「急に走り去っていった理由、聞けた?」と、俺に聞いてきた。


「その……」

「あ、理由を俺に話せってことじゃないから。聞けたか聞けていないかを知りたいだけ」

「聞け……ました」

「そうか」

庄田さんは笑顔のまま二、三回頷くと「なら良かったよ」と言ってくれた。

本当に、理由を聞き出す気はなさそうで、怒っている様子もなかった。


庄田さんが、左手首に着けた腕時計を見ながら言った。


「俺、駅までの近道知ってるから案内してやるよ」


庄田さんにありがとうございますと伝え、お言葉に甘えて駅まで道案内してもらうことになった。


飲食店等が立ち並ぶ商店街の通りから一本外れた狭い道を、庄田さんの後ろをついていくようにして歩いていく。


「あの……迷惑掛けて、本当にすみませんでした」

その途中、庄田さんの後ろ姿に向かって謝罪すると。


「いやいや。そもそも俺の方から突然声掛けて話に付き合ってもらった訳だし。
それに……何か君達は他人とは思えないんだよね。何つって」

庄田さんは冗談っぽくそう言うが、それは俺も感じていた。


律と綾さんは二人共、喉の病気にかかっていた。

俺と庄田さんは、そんな彼女達のことを好きになった。


病気が原因で気持ちが弱くなっていた律は嘘を吐き、同じく病気が原因で弱っていた綾さんは、その嘘に救われたということだがーーこれらは全て、ただの偶然なのだろうか?