この声、聞こえますか?

止まり掛けていた律の涙が、また溢れている。

庄田さんと綾さんの、最後の思い出。それが、律が吐いた嘘。

綾さんの病気は、律が掛かった病気にも似ている。だからこそ余計に、気になってしまうのだろう。


声を掛けてあげたいのに、律を励ましたいのに……言葉が見付からない。
だって、律が嘘を吐いた原因は、俺にもあるんだから。

寧ろ、律は悪くない。悪いのは、律の苦しみに気付いてやれず、現実から目を逸らして逃げてしまった、あの頃の俺だ。



その時。庄田さんが俺達の姿を発見して、こちらに走ってきてくれるのが見えた。

それとほぼ同時に、頭の中で響いていたテレパシー発動音が音が聞こえなくなり、律とのテレパシーが切れたことが分かった。


庄田さんは、乱れた呼吸を整えながら、律に優しい笑みを向けた。


「律ちゃん。無事で良かった。あんな風に急にいなくなったら、達樹君が心配するだろ?」


表情に連動しているかのような、温かい声。

だけど律は、一瞬だけ庄田さんに目を向けると、すぐにその視線を逸らし、俯いてしまった。