いつもの時間に部活が終わり、いつもの様に更衣室で制服に着替える。

ふと、教室の机の引き出しに数学のノートを忘れてきたことに気づいた。宿題に必要なノートだった為、コーヤと尚也に事情を話して、先に帰ってもらい、俺は教室に戻った。

コーヤと尚也は電車通学だ。都会と違って何本も電車がある訳じゃないから、俺の忘れ物に付き合わせて電車に乗り遅らせたら悪いと思った。俺は徒歩通学だから、帰る時間は気にしない。



文化部も生徒会も、もうすっかり校内を後にした様で、誰とも擦れ違わないまま教室へとやって来た。

が、うちのクラスだけ電気が点いていることに気付く。他のクラスは真っ暗で、廊下に電気が点いているだけなのに。
消し忘れだろうか。それとも、誰かいるのか?
恐る恐る、教室の引き戸をガラッと開けると。


「律?」

俺は驚いて、思わず大きな声を出してしまった。

律も、少しだけ驚いた顔で俺に振り返った。


……そう言えば、律の名前を呼ぶのは久し振りだった。仲良かった頃は、普通に名前で呼び合っていたけど……

”あれ以来”――会話をしたことは殆どなかったし、名前で呼ぶなんて、もっとなかった。
目が合うことすら、少なかった。


でも、名前を呼んでしまった上、しかも二人きりのこの状況で何も会話しないのはおかしい。
俺は律と、何とか会話をしようと試みる。半年以上ぶりの、ちゃんとした会話を。