「じゃ、じゃあそろそろいい加減に戻るか」

もう皆は弁当をとっくに食べ終えているかもしれないけれど、午後の種目が始まるまであと二十分。どちらにしろ早く戻らないといけない。



《……ねえ。皆には、何て説明するの?》

校庭へ向かって歩きながら、律がそう尋ねてくる。


「説明って?」

《私たちが付き合うってこと。皆には何て言うの? それとも内緒にしておく?》


……え?

急いで戻らないといけないのに、俺は思わず足を止めてしまった。
律も同じ様に俺の隣で立ち止まる。


「お、俺たち付き合うの?」

《違うの? 今しがた私のこと好きだって言ったの、嘘だったの? 酷い》

「う、嘘じゃない! だけど、律はまだ何も返事してなかったじゃん!」

今はまだ返事をもらおうとしなかった俺にも非はあるけれど。
過去の自分の過ちを謝りたい気持ちで頭がいっぱいになっていて、告白の返事をもらうのは二の次になっていた。


すると律は、ゆっくりとこう伝えてくる。


《私が今、千花や皆と仲良く高校生活を送れているのは達樹くんのお陰だよ。嫌いな訳ないじゃない》

「好きじゃないけど、嫌いじゃないから付き合ってくれるってこと?」

《……馬鹿》


律の顔が、いつもより少しだけ赤くなっているように見える。



《直接自分の口で言えないのが残念だけど……私だって、ちゃんと、想ってる》


初めて聞いた、律から俺への気持ち。


嬉しい……と言うよりは信じられない気持ちが大きいのだけれど。



「……ありがと。律は、いまいち素直じゃないところがあるよな」

再び歩きだしながらそう言うと、背中をバシン! と強く叩かれる。
痛かったけど、嬉しかった。