何気ない会話をするだけで幸せだった。
特別な話じゃなくて、テストの話や、部活の話、近所のラーメン屋の話とか、そんな、たわいもない話が出来るだけで満足だった。

それなのに、急に話が出来なくなった。
声が出なきゃ、どうやって会話するんだよって思った。ラーメンの話すら出来なくなったのが、切なかった。



そう思ったら、悲しくて。心臓が痛くて。


……気付いたら、前みたいに律に話し掛けることが出来なくなっていた。



そんなある日。

廊下に出て、ロッカーからジャージを取り出していると、偶然、律と居合わせた。中学では名簿番号が隣同士で、ロッカーも隣だったから。



律と一瞬目が合った。

すぐに目を逸らしはしなかったけど、律も、戸惑っているように見えた。

それは、そうだろう。
恋愛感情のことは置いておいても、俺達は仲が良かった。
それなのに、律が学校に復帰してからは、まだ一度も話していなかった。

律も、俺との接し方に困っているのだろう。
俺から話しかけなきゃ。
それは分かっていた。
だけど。



……だけど。




『達樹君ってさ、超能力とか信じる人?』



明るい笑顔で、馬鹿みたいな話を振ってくれる律はもういないんだと思ったら、何だか、泣きそうになって。



……涙を悟られないように、俺は、律から視線を逸らし、その場から立ち去ってしまった。