千花の言葉は、傍から聞いたら酷いものなのかもしれない。言葉が話せない律を〝普通じゃない〟と言っていると思う人もいるかもしれない。
だけど、千花がそういうつもりで今の発言をした訳ではないことは理解していた。
律のことを大切な友達だと思っているからこそ、千花の言葉の本気度も伝わってきた。

千花にとって律は大切な友達。それは、毎日教室でのやり取りを見ていれば分かる。
それでも、そんな酷いことを言ってまで、俺に気持ちを伝えようとしてくれている。俺なんかの為に。


その時だった。


――パキ。


という、木が折れるような音が背後から聞こえた。
千花にも聞こえたようで、二人で同じ方向に目を向ける。

すると。


「律……」

そこにいたのは律で、だけどすぐにその場から走り去ってしまう。

どこから聞いていたのか分からないけれど、俺達の今の会話を聞いていたかもしれない。


「嘘……私が酷いこと言ったの、聞かれてた?」

顔色をサッと変え、千花にしては珍しくかなり動揺している。



「追いかけてくる。大丈夫、今の発言は誤解だって、ちゃんと律に伝えてくるから」