「い、いや、何言って……」


否定の言葉を口にしようとするも、そんな訳ないだろ、という簡単な一言は、出てこない。

だけど、じゃあ何て答えるべきなのかも、瞬時に分からなくてグッと言葉に詰まる。


千花も、そんな風に肩で息をしてまで俺を探し、追いかけて、何で突然そんなことを言ってくるんだろう。



「……悪い。俺、もうちょい探してみる。千花は先に戻って、皆で昼飯食っててよ」

そう言って、千花にくるりと背を向けた、その時だった。



「待って! ……好きなの!」




……え?


好きって……?


歩きかけた足をその場で止め、千花に振り返る。


千花は真剣な顔で、言葉を紡ぐ。



「……私は、長尾のことが好き。だから、私と一緒にいてほしい! 一人で律のこと探しに行かないで!」



突然の、告白……?に、思わず思考停止してしまう。



嘘だろ。千花が俺を好き?

動揺する俺を見て「騙されてやんの、馬鹿」とでも言ってくるかと思ったが、目の前にいる千花は今にも泣きそうな顔をしていて、とてもそんな嘘を言っているようには見えなくて……。




「……ごめん」

俺も、そんな千花の目をしっかりと見据え、だけど謝罪の言葉を口にした。


千花の気持ちには、応えられない。



「と、友達としてしか見られてないのは分かってる。でも、頑張るから、今後少しでも可能性があるなら、付き合ってほしいの!」



今後の、可能性。

千花は美人で、ちょっと気が強いし第一印象は正直良くなかったけれど、優しいところもある奴だと、今は知っている。


……だけど。

付き合うとか、好きになるとか、そういうことを考えた時に最初に頭に浮かぶのは、千花じゃなかった。



頭に浮かぶのは、律の顔だ。




「……ごめん」

もう一度、はっきりとそう答えた。