《うん。出場種目のこと。最低一種目は必ず決めておくこと、ってさっき先生が言っていたじゃない? でも、私は当日見学していてね、って言われたの》

「見学? 何で?」

そう尋ねると、律は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。


《体育祭って、やっぱ、怪我する可能性があるじゃない? 場合によっては、大怪我する可能性も……。私、怪我とかしても大声で助けを呼べないから、学校の方針で競技に参加はさせられないって》

「は!? 何それ!」

《あ、でも仕方のないことだから。先生が悪い訳じゃないし、競技に参加はさせてもらえなくても、体育祭に出席出来るのは嬉しいし》

「でも……」

《達樹くんは知らないかもしれないけど、私、そういう理由で体育の授業もほとんど見学してるの。単位はレポート提出すればもらえるし、私が気にしてる腫れ物扱いとは違うから、そこは諦めてるよ》


だけど……と言葉を続けると、律は顔を上げて。


《一種目でもいいから、何か競技に出場したかったなっていうのも本音だけどね》



……そう、だよな。

運動とか体育祭とか嫌いな人ならともかく、律は運動神経いいし、スポーツ大好きだし、絶対出場したかったに決まっている。

何か、俺に出来ることはないだろうか? 律の為に……


いや、


俺の為、かもしれない。
俺が、律のこんな寂しそうな笑顔、見たくないから……。



《ごめん、しんみりしちゃったよね。誰かに話、聞いてもらいたくてさ。さあ、教室戻ろう》


うん……と答えながら腰をあげ、一緒に教室へ戻った。