顔を逸らされたまま、小さく呟くようにそう言われる。


「えーと……?」

「い、嫌なら別にいいけど……」

「……千花って誰?」

「私だっつの!」

バッと顔を上げ、視線を俺に戻した市川さんは明らかに怒った表情。


「アンタ、ほんとに馬鹿⁉︎ 今の話の流れからして、明らかに私の名前でしょ⁉︎ ていうかそれ以前に、私の名前知らなかったの⁉︎」

「い、いや、だって普段、名字でしか呼ばないし……」

「だったら今日から絶対に名前で呼びなさいよ! いいわね⁉︎」

人差し指をビシッと突き立てられながらそう言われる。

そこまで強く言われ、思わず「分かったよ」と答えた。

すると直後、パァッとまたしても明るい笑顔に変わる。
この表情の変化、まるで小さな子供みたいだな?
まあそれでも、教室で初めて会話したあの時より、随分と印象が良くなったよな。



すると突然。


《達樹くん》

律からテレパシーで名前を呼ばれる。
そうだ、さっき手と手が触れ合ったんだった。