「…茜のお母さんだ」
私はあの葬式以来、茜のお母さんを見ていなかった。
それは、すぐに分かった。
隣の男性に寄り添うかのように、茜のお母さんは笑っていた。
「つてからは、茜のお母さんは会社の事務で働いて、そこでお世話になった先輩と今度結婚するらしい。だから、もう心配すんな」
天沢さんはそう言って、私達三人の頭を右手で置き、撫でた。
芹沢は天沢さんの行為に、やめろと言いながら、少し照れた様子で天沢さんを見る。
私は、涙が溢れていた。
「…和歌ちゃん!どうしたの」
天沢さんは心配そうに私に声をかけてくれた。
「…いえ、何も」
私は涙目をしながらも、いつもより笑顔で答えた。
「あら、和歌ちゃんが笑ってるのは。作り笑顔じゃない、本当の笑顔を初めて見たわ。芹沢となんかあったのかな?」
店長は、からかうように私たちの関係をいじってきた。
「母さん。和歌さんと暁をいじるのはやめてよね。見れば、分かるだろう。もういいんだよ」
海里くんはそう言ってから、私達を見た。
海里くんは何かを察したのか、目を細めて私たちを見ていた。
「みんなが揃うのは、茜ちゃんの自殺する前に一回揃った以来ね。あの時は確か、茜ちゃん以外このメンバーだったわね。今回は茜ちゃんのいとこ、和歌ちゃんがいるし」
店長は海里くんの隣に座り、みんなに訴えていた。
私は茜がこのメンバーと集まって飲んでいたことを想像した。
茜は変わらず笑顔で楽しんでいたのだろう。眼に浮かぶ。
私が考えていると、芹沢は口に出す。
「……茜はいつものように楽しく笑ってだろうな」
芹沢はそう呟きながら、静まり返ってからみんなは言う。
「そうだな。芹沢くんの言う通りだね」
「暁。茜が楽しく笑っているよ。ちゃんと」
「暁くん。茜ちゃんは、いつも楽しく変わらずみんなのことを見てるわよ」
天沢さん、海里くん、店長は、芹沢を励ますように答える。
「……私も、そう思います」
私は芹沢が立っている横で、密かに声を発した。
「そうだね」
天沢さんは優しい口調で私の思いを汲み取ってくれた。
「あ、そうだ。今日もしかして、茜ちゃんの誕生日じゃない?」
「……そうだね」
天沢さんは携帯のロック画面を開いてから、カレンダーを見ていた。
視力がいいので、天沢さんの携帯が見えた。そこには茜の誕生日が書いてあった。
「……茜の誕生日」
芹沢は口に出して、呆然とどこかを見つめている。
「茜の誕生日か。茜が生きてたら、俺と同じ一六歳になってたんだ」
海里くんがそう言った瞬間、店長は海里くんの背中を叩いていた。
海里くんは周りを見渡して、気まずい空気になっていたことを察して、ごめんと謝っていた。
「……海里は……悪くないよ。海里と同じように生きてたらとは考える。だから素直に茜ちゃんの誕生日祝おう」
芹沢は海里に優しく声をかけた。
海里くんは黙り込んで、芹沢を見ていた。
「だね。じゃあ、今からケーキー買って、パァーとお祝いしよう。茜ちゃんの一六歳の誕生日。いいよね? 和歌ちゃん」
店長は立ち上がり、近くにあった自分のカバンを手にとってみんなに言った。
私はみんなに言った。
「はい。茜も喜びます」
「よしゃあー。じゃあ、今から買ってくる」
店長は、右手を上げて、駆け足で外に出ようとした。
すると、天沢さんは店長に言った。
「こんな夜中に今から買いに行くんですか?ダメとは言いませんが」
天沢さんは困ったような表情をして、みんなを見た。
「…だったら、ピザ屋に頼めばいいんじゃない。確かこの前チラシで見たんだけど」
海里くんは立ち上がり、自分の部屋に戻ったのだろうか。二階に上がっていた。
すると、タンダンと階段の音がした。
「これ、これ」
海里くんは右手に持ち、ピザ屋のチラシを持って、店長に渡していた。
「おっ、これいいんじゃない。しかも、今日でサービス終わりなんじゃない。まだ、大丈夫だね。ここに電話するね」
「そんな早く決めていいんですか?」
天沢さんは、店長に言う。
「じゃあ、これ見てみて。いいと思うから」
店長はそう言うと、天沢さんは手に取り見た。すると、目の色を変えて私たちに言った。
「…これ、茜ちゃんのためにあるサービスだね」
天沢さんがそう言うので、芹沢と海里くん、私は天沢さんの近くにより、チラシを見た。
それは、ピザ屋にしては珍しい。
スイーツ、ピザ。そして、茜が好きなたこ焼き盛りだくさんのサービスが載っていた。
ほとんど茜が好きなものだった。
私達は、チラシに釘付けになった。
みんな、思ったことは一緒だと思う。
茜の為のサービスだと。
「…じゃあ、これで頼むわね」
店長は受話器を取り、すぐ電話した。
数時間後、お店にピザ屋のサービス商品が届いた。
届く前に、お皿などをテーブル席にセッティングしていた。
海里くんは届いた商品をテーブルに並べて、私はお茶などを準備していた。
天沢さんと店長は、キッチンで何かを作っていた。
芹沢は、携帯を開いて何か見ていた。
「みんな、揃ったわね。茜ちゃんの誕生日おめでとう!」
みんなはコップを持ち、乾杯をした。みんなは笑顔だった。
その時、芹沢は携帯を開いて、私達に見せた。それは、茜の写真だった。
「…亡くなる前に最後に撮った写真。俺と海里と一緒に帰っている途中で、茜を撮った」
芹沢はそう言って、みんなが見えるようにテーブルの端っこに置き、携帯を壁にくっつけて茜の写真が見えるようにした。
私たちは、テーブル席二つをくっ付けて、茜の写真を見た。
「……茜、誕生日おめでとう」
芹沢が言うと、みんなは笑顔で言った。
「誕生日おめでとう! 茜(ちゃん)」
芹沢以外のみんなが、同時に携帯の中にある茜の写真を見て、笑顔で祝福をした。
茜の死からもう、二年ほど。私は茜が亡くなって、悲しくなかったわけではない。
ただ、身内から死んだ人が現れるとは思わなかったんだ。死ぬということが、どれだけ悲しくて寂しいのかが分かったからだ。
茜が死んで、泣いている人が多かった。
特に茜の母親だ。
うちの母親と茜の母は、二人とも姉妹だ。
そこで1番気に入られたのは、茜。
私はただ隅っこにいるような邪魔もの扱いだ。だから、私は分からなくなったのだ。
家族の愛情、死ぬということ、そして、生きることがめんどくさくなっていた。
その時に芹沢達と会わなければ、私は今のように笑顔で笑っていただろうか。
「じゃあ、撮るよ! はい、チーズ」
店長が片手にスマホを持ち、食事を食べて話したあと、パチリと写真を撮った。
この写真は、みんな笑顔で撮れた写真であった。芹沢だけムスっとしていたけど、芹沢らしい。
茜、見てる? 私達は、元気だよ。
これからも私たちを見ててね。
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・400字程度のあらすじ
都立空高等学校2年、工藤和歌(くどうわか)は誰にも明るくて人当たりがいいが、心の中でいつも死にたいと思い、学校の屋上を一人で立っていた。芹沢暁(せりざわあかつき)がやってきた。何を考えているか分からないと評判の彼は、いつ死ぬのか分かると言い放つ。
彼の言動に不思議に思いながら夏休みに入った。私は外をブラブラと歩いていたら、芹沢を発見した。海喫茶店の看板を出していた芹沢は学校とは別の顔だった。芹沢の親友であり、金髪男子海里(かいり)、おばあちゃん家の隣・天沢健(あまさわけん)さんは、いとこの茜と関係する人物であった。 茜が死んだのは、中学2年の時で、当時友達にいじめられていたことで自殺をして病院で亡くなった。
私は芹沢と同じで誰かと分かち合いたかったんだ。 戻った時、みんなが集まっていたのは、茜の母親の行方がわかったから。今は事務職をして、結婚したという。会話していたら、今日が茜の誕生日だということを知る。運命を感じて頼み、届いた商品をテーブルに置いて、各々ドリンクをよそうなどやりながら、みんなでテーブルに囲む。芹沢は携帯から茜の写真を出して、テーブルの端っこに置いて、みんなで大きい声で茜の誕生日を祝った。