「…あ、いやなんでもない。ちょっと外出て、空気吸ってくる」

あれは幻だったのか。
芹沢があんなことを言うなんて。

私は休憩スペースで座って、一人呆然と座っていた。

すると、急に道を通っていた女の子が倒れた。

高校一年生だろうか。

新品の服を着ていて、少し幼さを感じさせる。

その女の子が私の目の前で倒れたのだ。

隣にいた友達は、暦、暦と何回も呼んでいた。

倒れた女の子の名前を呼んでいた。

近くでその姿を見ていた教師は、すぐに救急車を呼び、生徒に近づけないように生徒に大きい声で訴えている。

「…ここは通れないので、皆さんこっち側から通ってください」

先生方は協力して、生徒が見られないように声をかけていた。

大丈夫なのかな、あの女の子。でも、なんで私の目の前で。

そんなことを考えていると、私の前を通り過ぎていく男子生徒がこんなことを言っていた。

「あの噂、本当だったのかな」

「なにそれ」

「確か、今日聞いた話だけど。今日誰かが死ぬっていうことを知っていた人がいるみたいって噂になってる」 

男子生徒二人組が話をしながら、そんなわけねぇよなと言って、笑っていた。

そんなことある訳がない。

だけど、考えられるのは、ただ一つ。

芹沢暁だ。

私は先ほど話していた男性生徒一人に声をかけた。

「…あの」

「はい」

「さっき話していた事、どこで聞きました?」

「さっきのって」       

「今日誰かが死ぬっていうことが噂になっているってこと」

「あー、それ。誰だっけ」

男子生徒はもう一人の男子生徒に聞いていた。

「…えーと、確か。ほら、顔はいいのに、何か闇がありそうな…えーと」

男子生徒はうーんと首を傾げていた。

「あっ、あいつだよ。芹沢暁」

もう一人の男子生徒は、右手の人差し指をさして、誰かを指していた。

それは、男子生徒二人組の真正面に廊下を通っていた芹沢暁がいた。

「じゃあ、僕たちはこれで」

 男子生徒二人組は、芹沢を見た途端、逃げるように去っていた。

まさか、芹沢が。なんで、こんなことを。

本当に芹沢本人が言ったっていうの。

芹沢は私に気づき、スタスタと戸惑いなく私の方に近づいてくる。

「……あんたが聞いたこと本当だよ」

芹沢は私の目の前に来て、真顔で私に言ってくる。

「……芹沢は、何者なの?」

私は芹沢本人と対峙して、芹沢の目を見た。

彼は、ただ私の目をまっすぐに見ているだけで、何を考えているのか分からない。

「…何者でもないよ。俺は至って普通の高校生」 

そう言って彼は、ニコッと不自然な笑みを零した。

「…普通じゃないよ。芹沢」

「…確かに普通でないかもな。あの女の子が亡くなったのは、元々持病があって治療していたんだけど、それがひどくなってきた。彼女は学校に通いたいって、薬を飲みながら、治療していた。だけど、今日急に持病が悪化して、お昼くらいに亡くなる。彼女と一限目にすれ違って分かった。それで、傍にいたクラスメイトに聞かれたから、答えて広まってしまった」

芹沢は女の子が倒れた現場を見つめていた。

「…じゃあ、なんでその女の子を助けなかったの。わかっているなら、助けたら倒れることなんてなかったはずでしょ」

私は芹沢に問い詰めるように芹沢を見る。

「…もう決まっているんだよ。死ぬ日・時間は生まれた時から。だから、俺が助けたとしてもどうにもできないんだよ」

芹沢は現場を見ながら、目を細めて少し悲しげな表情でただ見つめていた。

何かを思い出しているかのように。この男は、何があったの。

「じゃあ、用は終わったから。俺はこれで」

芹沢はズボンのポケットに両手を入れてから、去っていこうとした。

私は後ろ姿の芹沢に何か言おうとしたが、何も言えなかった。

芹沢が抱えていることが分からないから。

どうしようもなかった。


この日、私は芹沢という人間の裏側を知ることになった。

まだほんの一部しか知っていなかった。

彼が何をして、なんでこうなったのかを。


今日から夏休みに入った。昨日は色々ありすぎて、本当にあったことなのか不思議に思う。

 そして、家で過ごしていたら、ヴゥヴゥとラインの通知がきていた。
 なんだと思いながら、ラインの通知をタッチする。

 おはよう。今何してる? と琴葉からラインがきていた。

何もしてない。

どうしたの? と私は琴葉にラインを返す。

今私外にいるんだけど、誰かに付けられている気がするの。どうしようと琴葉から返ってきた。

え? 大丈夫なの。今どこなの。

琴葉は、針葉駅。

私の家から最寄り駅が近い場所だ。この距離なら、徒歩でなら行ける。

分かった。待ってて。と琴葉にラインを送って、すぐに着替えを済ませて、針葉駅に向かう。

はぁ、はぁ、はぁ。私は走るのは苦手だけど、私なりのペースで走った。
すると、琴葉が針葉駅の改札口で下に俯いていた。

「琴葉」

私は琴葉を見つけたら、琴葉の元へ駆け寄った。

「大丈夫なの。琴葉」

「今はあそこのコンビニにいる。だから、今のところ大丈夫」

琴葉は少し震えていた。夜ではないけど、見知らない男性につかれるのは気持ち悪い。

「武蔵は連絡取れないの」

「ううん。武蔵は今日バイトだから」

あ、そういえば夏休みは毎日バイト入れるって言っていたもんな。

「…どうする? 琴葉」

琴葉は、数分黙っていた。

「……和歌に迷惑になるけど、少しの間だけ、和歌いてもらっていい?」

琴葉は遠慮がちに私に聞いてきた。

そんなこと気にしなくていいのに、そんな琴葉だから友人として尊敬する。

「大丈夫。私と一緒にいよう」

満面笑みで私は琴葉に答えた。

私がニコニコしてないと琴葉は不安な気持ちが強くなるだけだから。

「じゃあ、まずは警察に行く。そしたら、ストーカーもあっさり逃げるんじゃない。まだ、昼間だし」
琴葉は不安そうにしながら、私に答えた。

「…うん、そうだね」

私と琴葉は、近くにある警察署に向かった。

近くにあった警察署が近くなるほど、ストーカーは遠ざかりながらついて来た。そして、警察署の見張りをしている警察の方に事情を話して、近くにいたストーカーは無事に捕まった。

ストーカー曰く、可愛い人いたから、付いていきたくなるだろと大きい声で私たちの前で言っていた。

私達は目を合わせて、犯人に引いていた。

「…まぁ、無事でよかったね。琴葉」

「そうだね。和歌夏休みになったばかりなのに、迷惑かけてごめんね」

琴葉は私に対して、謝った。

「…別に大丈夫だよ。何もすることなかったし」

私は琴葉に言い、ニコッと笑った。

琴葉は安心したのか、私に感謝の言葉をかけていた。

「…っありがとう。和歌」

そう言ってから琴葉を見送り、別れた。

今バイト中の武蔵には連絡した方がいいと思い、ラインでメッセージを送った。

私は賑やかな街中を一人でトボトボ歩き、帰路に着こうと家に向かおうとした瞬間、私は見に覚えがある人物を見かけた。

「あっ」

私はその人物を見た途端、思わず声を出していた。

だって、そいつは

「…なに、黙ってみてんの」

「いや…だってね。なんでこんなところにいるの?芹沢」

芹沢はいつもの制服とは違い、白いワイシャツを着て、腰にはエプロンを付けていた。

目の前にあった海喫茶店の看板を店の前に置いていた。

「ここで働いているの?」

「…そうだけど。なに」

「いやいや、バイトってうちらの学校禁止だったよね」

芹沢は考えながら、私に平然と言ってくる。

「…そんなの気にしてたら、何もできないだろ」

芹沢はいつもの無表情で私に言ってくる。

「…暁! もう何してるの?」

そう言って出てきた男性は、芹沢と正反対に可愛い男の子だった。

肌もきれいで、髪は金髪で外国人の様に背が高く、声も透き通っていた。

「この人は?」

「…俺のクラスメイトの工藤和歌さん」

なにその紹介。まぁ、いいけど。確かに友達というわけではないし。

「…初めまして。工藤和歌です。こちらの方は」

芹沢は私の方を見てから、金髪男子の方を向き直して言った。

「この店の息子・海里(かいり)。今は事情があって、学校に行けてはいないが、いい奴だ」

あの芹沢が言わせる金髪男子は、一体どんな人なのだろうか。

「工藤和歌さんね。よろしく。僕は海里。高校一年生。和歌さんより一つ下だけど、仲良くしてくださいね」

両目をクシャとしてから、歯が見えるほど私に微笑みかけた。

「…こちらこそ、よろしく」

海里くんから右手を出してきたので、笑顔で私の右手を出して握手をした。

事情があって学校が行けなくなっている。とてもこの子が何かに抱えているのなんて思えないほどに。

「あ、折角だから、ここでお茶飲んでいけばいいじゃない。もう開店するし。ねぇ、暁」

海里君が大きな瞳で芹沢の方を向いて訴えていた。

「…はぁ、分かったよ。お前も入んな。どうせ暇なんだろ」

ため息をしながら芹沢は、私に海喫茶店のドアを開けて、案内してくれた。