「っ!!」
 フーカは、突然目を覚ました。彼女の目に一番最初に飛び込んできたのは、見慣れた部屋の天井だった。
「夢か……」
 随分と、気味の悪い夢であった。夢の中で、もう一人の自分にいわれた言葉が、今も彼女の耳に残っている。

『嘘つき』

「嘘……」
 人は誰しも、他人に対して嘘の一つや二つはついているものだ。もちろん、フーカは現在進行形で伊都についている。自分は家出少女だという嘘を。
 本当のことを言う勇気はない。だから嘘をついた。しかし、嘘は嘘だ。いつバレてもおかしくない。分かっている。分かっているのだが……。
「…………」
 ふと壁にかけてある時計を見ると、もう九時を回っていた。彼女にしては、遅い目覚めである。
 こんな時間なのに、カーテンはまだ閉まっている。きっと、伊都もまだ寝ているのだろう。
 仕方がない。伊都を起こそう。フーカは伊都の布団をめくった。
「イト、もう九時よ。起き……」
 フーカは固まった。
「いない……」
 布団の中に伊都はいなかった。
「え、どういうこと?」
 フーカは焦って、部屋中を探し回った。しかしどこにも伊都はいない。
「イト? どこなの、イト!」
 その時、彼女は思った。
 そうか。自分より早く起きて、リビングで朝食をとっているのか、と。ならば話は早い。階段を降りてリビングに行けば、彼はいるのだ。
 フーカは、部屋のドアに手をかけた。しかし、彼女は開けるのを躊躇した。夢ではこのドアを開けたら、真っ暗だった。そこから、世界がおかしくなっていったのだ。
 ここは現実。そんなことはあるはずがない。分かってはいても、なかなか彼女はドアを開けられずにいた。
 もし開けたら、すべてが終わってしまうのではないだろうか。この平凡な日常も、伊都という存在も、全部失ってしまうのではないか。そう思うと怖くて、開けられなかったのだ。

『あなたは、ずっと、ひとりぼっち』

 あの声が蘇る。一人とは、こんなにも不安になるものだったのだ。過去を思い出し、フーカは震える。
「誰か、助けて……!」
 そして、祈るように彼の名前を呼び続けた。
「イト! 助けて!」
 部屋のドアが開いた。そこにたっていたのは、伊都だった。
「ただいまー。おー、起きてたのか」
 お気楽な声で、彼は言う。フーカは、咄嗟に伊都に抱きついた。
「おわっ! え、ちょ、どうしたんだよ」
「バカ!! どこ行ってたのよ、心配したじゃない!」
「いや、どこって、ちょっと出かけて……ちょ、痛いって」
 しかし、フーカは抱きついたその手を緩めない。もし緩めたら、消えてなくなりそうな気がしたからだ。
「……もう会えないかと思った」
「なんでだよ」
「分からない」
「もっとなんでだよ。あと、痛いんだけど……」
「このままがいいの」
「えー」
「お願い、もう少しだけ」
 伊都の温もりを感じたい。
 伊都の存在を実感したい。
 フーカは、こうしている事で、その思いが満たされていく気がした。
 私はひとりじゃない。
 彼女は確かにそう思った。