「少女は不治の病を患っていて、自分があとわずかしか生きられないと知り、外の世界に飛び出しました」



あぁ、やっぱり物語だ。何のお話だろうか。

唖然としていた脳内が整理された頃には、夢中になって物語を聞き入っていた。



「そこで少女は一人の少年と恋に落ち、二人は次第に惹かれていきました」


しかし、と。

低くなった声色のトーンとは裏腹に、葉上先生の表情は終始和やかだった。その差が何を示唆しているのか、わたしには読み解けない。



「運命には逆らえず、少女は永遠の眠りにつきました」



亡くなっちゃったんだ……。

ハッピーエンドだと勝手に思い込んでいたから、余計に悲しくなる。



「そして少年は、少女ように病に苦しんでる人を救いたいと決意し、医者になりましたとさ」



え。
医者になりました、って。

それって……!



「もしかして、今の物語……」


「そう、少年っていうのは俺のこと」



つまり、今聞いていたお話はどこかの物語じゃなくて、葉上先生の過去だったってこと?何かの童話だと思ってた。


それじゃあ、今の話は、何のフィクションもない葉上先生の人生なんだ。葉上先生が医者になったのは、一つの恋がきっかけだったんだ。



「話を聞いて、どう思った?」


「バッドエンドにならずに、二人に幸せになってほしかったって思いました」


「そうか」



左腕の検査を終えた葉上先生が、左腕から手を離し、椅子の背もたれにもたれた。重みに負けて、ギィ、と椅子が軋む。



「まあ、結末はバッドエンドだったけど、少女……俺の好きな人も俺自身も幸せだったんだ」



好き“だった”人じゃなくて、好きな人。

葉上先生は、今でもずっと、少女のことを想ってるんだ。きっと、これからも。


なんて一途で、儚い恋なんだろう。



「後悔とか、しなかったんですか?」


「そりゃあ、数え切れないくらいしたさ。振り返ってみれば後悔ばっかりだ」



じゃあ、どうして。