包帯も一時的に外された。

ガラスの破片で負った傷の部分を重点的に、左腕を調べ始める。



「莉子ちゃん、恋してるだろ」


「えっ!?」



検診の途中。

葉上先生が唐突に放った発言に、過剰に反応してしまうのは仕方のないことだ。



「な、な、何を言って……」


「お、当たり?」


「ぅえぇ!?」



図星中の図星。ピンポイントで突かれ、間の抜けたリアクションを取ってしまった。葉上先生に笑われるのも無理はない。わたしだってあんな声が出るとは思わなかった。


なんでわかったんだろう。顔に出てた?わたしってわかりやすいの?



「それ、検査に関係あるんですか?」


「いんや?」


「ないんですか!?」



じゃあ、なんで聞いたんだろう。



「検査には関係ないが、莉子ちゃんが悩んでるように見えたから気になってさ」


「え……!」


「これも当たった?」



こくん、と小さく頷く。


以前からだけれど、葉上先生はわたし……というか担当している患者のことをよく理解しすぎている。言葉にしていなくても、全て汲み取られてしまうんだ。

葉上先生がいろんな患者さんに好かれているのも納得できる。良き相談相手に、そして良き理解者になってくれるんだ。



一つ悩みが解決すれば、また一つ悩みができる。
悩みは、尽きない。


環くんの力になりたいのに、何もできていない。むしろ、環くんの負担になっているんじゃないかと、ブレーキがかかる。


前に進むのをやめたくなる、非力な自分が嫌い。臆病な自分が、苦手。



葉上先生が検診しながら、ふっ、と浅く息を吐いたことをわたしは気づかなかった。肩を落とすわたしに、やわく瞼を伏せる。



「あるところに、とても美しい少女がおりました」


「……は、葉上先生?」



葉上先生が紡ぎ出したのは、とある物語……だろうか。


わたしはいきなりのことにびっくりして、目をぱちぱちと数回瞬きをする。