悲嘆に暮れた過去を思い出すのは、今でも苦しくて息が詰まる。わたしはきっとこれからも、あの悪夢を忘れることはできないし、雪が降ったら恐怖で身を震わせるのだろう。
『怖がらなくていい』
……でも、うん、そうだよね。
環くんがくれた勇気が、一歩を踏み出す力となる。大きな光じゃないかもしれないけれど、ちゃんとわたしの道しるべになってくれる。
「依世ちゃん」
「ん?」
「あ、あのね、」
話したかった。
知っていてほしかった。
依世ちゃんになら、打ち明けられる。
「わたしの秘密、聞いてくれる?」
依世ちゃんは一瞬驚いたが、すぐに前のめりの体勢になった。わたしに顔をズイッと近づけて、大きく頷く。
「なんでも聞くよ。聞かせて?」
依世ちゃんの澄んだ瞳が、わたしを射る。わたしの不安が跡形もなく消え去った。
待っててくれて、ありがとう。
不覚にも、打ち明ける前から泣きそうになって、頑張ってこらえた。
「わたしね、クリスマスイブのとき――」
ゆっくり、ゆっくり語り始めた。クリスマスイブに起こった悪夢と、わたしが隠してきた真実を。一言一言、言葉を探しながら、拙くてもしっかり伝わるように。
その間ずっと、依世ちゃんは黙って、真剣に聞いてくれていた。
全てを語り終え、頼りなげに眉尻を下げる。
やっと、言えた。
「わたしの左腕は、この先、”普通”に戻ることはないんだ。一生、このまんま」
しょうがない。
時間を巻き戻しても、あの雪崩を防ぐことはできなかった。
死んでしまったお母さんとお父さんも、犠牲になったわたしの左腕も、蘇ることはない。
「あながち、あの噂は間違ってないの」
まるっきりウソとは言いきれない。
フツーじゃないバケモノだと、わたし自身も感じていたのだから。