この状況は、なんだか、八年前のあの日と重なる。


あのときも、こんな感じだった。

『あ……』

一音しか発せられずに、会話もなく終わった、最初で最後の初恋。


“あのときの少年”に会えたのは、たった一日。いや、一日にも満たしていない。たったの数分だ。


辛さを感じる間もなく、ほのかな甘さだけを残して、あどけない思い出の欠片となった。あれこそ正真正銘の、一目惚れだ。そして、一目見て、終わってしまった。



けれど、二度目の恋は、甘さの少ないビターな味。

優しいミルクは最初だけ。ミルクを全部注ぎ込んでしまったなら、あとは無糖の残り物。この苦味も好きにならなくちゃ、甘さを追加注文はできない。




「――あきらめたほうがいいんじゃない?」



体育の授業中。

体育館の脇で一緒に体育座りしている依世ちゃんの、一刀両断するような声で、八年前の記憶から目を覚ます。


この恋を、あきらめる!?



「む、無理だよ。あきらめる方法なんて知らないし……」


「簡単じゃん。先生に『見学します』って言うだけ」


「……へ?」



け、見学?
何を言ってるの?



「見学って……どういうこと?」


「さては、あたしの話、聞いてなかったな?」


「うっ……」



図星を突かれ、素直に「ごめん」と謝る。

言い訳のしようもありません。



「まったくもう。もう一回話すから、今度はしーっかり聞くんだよ?わかった?」


「はい!」


「よし、いい返事だ」



敬礼のポーズをしてキリッと凛々しくなるわたしと、どこかのえらい指揮官っぽく両腕を組んだ依世ちゃん。

なんだかおかしくて、どちらともなくプッと噴き出して笑い合った。


そのせいで、先生に注意されてしまって、またこっそり笑った。



「それで、何の話をしてたの?」


「今日の体育はバレーでしょ?」


「…………」


「本当に始めから丸々聞いてなかったんだね」


「すみません」