環くんはいつも、すれ違いざまに顔を歪めている。

環くんも、傷ついている。


わたしに、環くんが背負っているものを、半分でいいから分けてほしい。そう願うこともわがままになってしまうのかな。



環くんを見れば見るほど。

知りたいと思えば思うほど。


なぜ関わりを断ち切ろうとしているのか、わからなくなる。そこまでして独りになろうとするのは、どうしてなのだろうか。




でも、一つ、わかったことがある。


環くんは泣いていないのに、泣いているように見える理由は、きっと――。





友達でいることも迷惑だと言われてから、早いもので一週間が経った。別れた恋人のようなギスギス感は一切ない。それが逆に苦しくてたまらない。


今日も相変わらず、環くんに距離を取られてる。あっちはわたしを全くと言っていいほど意識しておらず、常に平然を保っているから、わたしは躊躇を覚えてしまった。



キーンコーンカーンコーン。校舎中にチャイムが鳴り渡る。昼休み終了の合図だ。


午後の最初の授業は、体育。

女子更衣室で制服から体操服に着替え、依世ちゃんと共に古びた体育館へ移動した。



体育館につながる渡り廊下。

依世ちゃんと喋りながら歩いていたわたしのすぐ横を、環くんが通り、さっさとわたしを追い越していった。



「た……」


環くん、と呼ぼうとして、唇を引き結んだ。今はためらったわけじゃない。


呼んだら、話せる。
だけど、そうじゃない。

わたしは環くんと、無機質な会話をしたいんじゃないんだよ。


壁などない、他愛のない話がしたいの。