昨日とは打って変わって、今日は朝から日差しが強かった。昨日は一日雲に隠れていた太陽が元気にパワーアップしたみたいだ。


天気が快晴になっても、当然環くんの態度も晴れになるわけではない。



最初は、挨拶もやめようとも考えたけれど、挨拶は友達じゃなくてもするものだ。たとえ見ず知らずの人にだって挨拶する。挨拶って大切だよね、うんうん。

そう開き直って、環くんに声をかけた。



「おはよう、環くん」


「おはよ」



その日、環くんがわたしの名前を呼ぶことはなかった。いつもは『莉子ちゃん』って呼んでくれるのに。

いつの間にか慣れていたその”当たり前”は、また、突然消え失せる。



拡がっていく距離にすがろうとしては、引き離される。


環くんとの思い出にまで、苦痛が及び始めた。



一日、一日。
日を重ねるたびに、環くんは遠ざかる。わたしがいくら追いつこうとしても、追いつけない。


挨拶をしたら、返してくれる。


名前を呼んだら、応えてくれる。


その姿は誰より優しい……のに。

ひどく冷たくて、悲しい。


前に、依世ちゃんが言っていたっけ。



『それに、皆瀬くんって、なんていうか……誰にでも優しいけど、それだけっていうか』

『話しかけたら返してくれるけど、絶対にこっち側に踏み込んでこないし』



本当にそのとおりだ。

クラスの雰囲気に同化しつつ、誰とも深く関わらないように過ごしてる。誰に対しても平等で、冷淡。どこにも環くん自身の感情は馳せていない。



環くんとの会話は、「おはよう」と「またね」の挨拶だけ。



勇気を出して話しかけようとしても、なんとなく近づけずに断念してしまう。

その繰り返し。


険しい隔たりを、なかなか越えられない。



『泣かせたくないから、ダメ』


保健室で言われた、あの言葉の意味を聞きそびれたから、なおさら話しかけづらいのかもしれない。




環くんは、わたしを避けない。


その代わり、笑顔で拒む。


これ以上こっちに来るな、と。