環くんは、淡白な笑みを浮かべる。今の今まであふれ出ていた切なさを、仮面の中に押し込めて。無理してる素振りなく、完璧な笑みを。
「大丈夫だよ」
あ。
今、わたし。
笑ってごまかされた。
本当に?
そう聞き返そうとしたわたしを見透かすみたいに、
「莉子ちゃんは、どうしてここに?」
今度は環くんが質問をしてきた。
わざと、なんだろうな。
「琴平先生に用があって、それで……」
「琴平先生なら、さっき購買に昼食を買いに行ったよ」
……あ、また。
胸を過る、妙な違和感。
この違和感の正体は、何なんだろう。
窓際から離れた環くんが、わたしの横を通り過ぎる。
違和感が、膨れ上がる。
肩が当たりそうで、当たらなかった。代わりにお互いの小指の表面が、ほんの少し、こすれる。
あぁ、そうか。
この違和感が何か、わかった気がした。
いつもどおりだと思ってた。
だけど、違ったんだ。
環くんは上辺だけ“いつもどおり”を演じながら、知らないうちに、わたしから離れていっていた。
友達の距離ですらない、クラスメイトとしての距離へ。
関係をリセットするみたいに。
初めからどちらにも”特別”なんかなかったことにしようとしてるんだ。
環くんが遠ざかっていく。
やだ。
こんなの嫌に決まってる。
お願い、待って。黙って壁を作らないで。
わたしの気持ちを無視しないで。
「待って、環くん!」
咄嗟に振り返り、必死になって環くんを引き留める。
環くんは、保健室を一歩出たところで、足を止めた。