後悔はしてない。
初恋は、たったの一瞬で。
“あのときの少年”には、「好き」と言えなかった。
だけど、環くんには「好き」を送ることができた。それだけで、恋をしてよかったと思える。
……そうだよ。
わたしにとって、昨日の告白は謝ったり謝られたり、落ち込んだり落ち込ませたりするようなものじゃなかった。あれはわたしが想いを贈れた、大事なワンシーンだったんだ。
いきなり依世ちゃんが、ぎゅぅ、とわたしを抱きしめた。
「い、依世ちゃ……?」
「頑張ったね、莉子」
抱きしめる力が、わずかに強まる。また力が弱まったと思えば、背中をポンポンと優しくさすってくれた。
わたし、頑張れたのかな。
フラれたけど、頑張った、よね?
拭いきれていない悲しみが甦って、涙腺をゆるませた。
『泣いてもいいんだよ』
逃げ出したあの日。
環くんが、わたしの涙を赦してくれた。
あの桜の木の下で。
瞳が、潤んでいく。滴った涙は、依世ちゃんの肩に落ちて、雨雫の跡と混ざっていった。もうどれが涙のシミか、探しようもない。
昼休みのチャイムが鳴る頃には、大分雨音は弱まっていた。
依世ちゃんとお昼ご飯を食べたあと、わたしは職員室に向かった。
「失礼します」
職員室に入り、冬木先生の元へ行く。
今日はわたしが日直の担当。
そのため、日直の仕事として、午後の総合の授業で使用するノートとプリントを受け取りに来たのだ。
「はい、じゃあこれお願いね」
「わかりました」
「あ、あと」
「はい?」
クラス全員分のノートとプリントを持って出て行こうとしたら、冬木先生に引き止められた。
「そのノートとプリントを教室に持っていったあとでいいから、保健医の琴平先生にこの紙を渡してきてくれないかしら?」
「はい、わかりました」
冬木先生の頼みを快く引き受ける。
冬木先生から『保健だより』と記された一枚の紙を手渡された。