あの微笑みには、どんな感情が秘められていたのか。

予想すらさせてはくれない。


この校舎のように、簡単には踏み込ませてはくれないんだ。



「もしかして、邪魔しちゃった?」



申し訳なさそうにする依世ちゃんに、わたしは大きく首を横に振る。そんなことないよ、と苦笑するだけで精一杯だった。


違和感が、恋心を侵食していく。今朝のわだかまりとは似て非なる、もどかしさに喰われていく。


様子がおかしいわたしを不思議に思ったのか、依世ちゃんがわたしの顔を覗き込んできた。



「何かあった?」



なんでわかっちゃうんだろう。

友達ってすごいな。
なんでもお見通しなんだね。



「あのね、わたし、昨日フラれちゃったんだ」


「え!?」



意外にも淡々と打ち明けられた。

依世ちゃんは信じられないと言いたげに目を丸くした。


わたしだって信じたくないけど、事実だからどうしようもない。受け止めないといけない。


自覚して、即失恋なんて。
いくらなんでもスピードが速すぎるよね。

それとも、恋ってこういうものなのかな。



「っ、ごめん!」


突然依世ちゃんに頭を下げられ、戸惑う。



「どうしたの急に。なんで依世ちゃんが謝るの?」


「だって……あたしが昨日、期待持たせるような適当なこと言って、莉子を振り回しちゃったから……」



違う。違うよ。

自分を責めないで。依世ちゃんのせいじゃない。



「謝らないで」


「でも……」


「昨日依世ちゃんがああ言ってくれたから、わたしは告白できたんだよ」



そう。
依世ちゃんが、背中を押してくれたの。


実際は勘違いだったけれど、そんなことどうでもいい。ちっぽけな期待を抱いていたからこそ、勇気が湧いて伝えられたんだよ。好き、って。



「だから、ありがとう依世ちゃん」