「次は失敗しないようにすればいい」
「え……?」
おじいちゃんは端的にそれだけ言って、指を舐めた。ようやく新聞をめくる。
「おじいさんの言うとおり。失敗してもいいんじゃよ。大事なのは、その失敗を次にどう活かすか」
しわくちゃに表情をほころばせたおばあちゃんが、大丈夫、と目にも口角にもシワを寄せる。どこまでも柔らかいその表情に、きゅっと拳を握り締めた。
失敗してもいいの?
次、失敗しないように頑張る。
それで、いいんだ。
心地の悪かったわだかまりが、すうっと溶けていく。
「ありがとう、おばあちゃん、おじいちゃん!」
「元気が出たみたいだねぇ」
「うんっ」
くよくよしてたって仕方ない。おばあちゃんとおじいちゃんに言われたとおり、次のことを考えよう。反省も大事だけれど、そればかりしてちゃ現状は変わらないままだ。
昨日逃げてしまったなら、今日前に進んで、新しく上書きすればいい。
どれだけ怖くても、会いたい気持ちはここに在るから。
傘が、雨を弾く。
家から学校へ行く短い距離でさえ、困難に感じるくらい今日の雨は強く、鬱陶しい。足元はすでにびちゃびちゃに濡れてしまっている。制服のネイビーは、さらに濃く変色しかけている。
さっき平らげたばかりのおいしい朝食も、この雨と一緒に洗い流されそうで、思わず胃のあたりを制服越しに掴んでいた。
せっかく視界がクリアになったというのに、厚い雲と大雨のせいで、景色は暗く淀んでいる。昨日までと似た、不明瞭な世界。鮮やかな色にはほど遠い。
校舎前に到着して、すぐに環くんを発見した。
環くんが傘を閉じて、校舎に入っていく。
「……よし」
恐れずに自分から当たってみよう。
女は度胸!行くんだ私!
小さく気合いを入れて、たっぷりの水を含んだ足を校舎の中に踏み入れた。
「た、たた、た、環くん!」