――ピピピピピッ!!


規則的な機械音は、セットした時間と寸分の狂いもなく、時間ぴったりに喚き出す。失恋したてでも容赦なく、早く早くとたたき起こされた。


持ち上げた瞼が、いやに重たい。
あぁ、きっと腫れてるな。これは絶対ぼったり腫れてる。やだなあ。


昨日の告白を思い出して、朝一番にため息を吐いた。閉ざされたカーテンの隙間から大抵は漏れている日差しが今日はなく、余計にテンションは上がらない。斜め下に急降下だ。



……昨日は、逃げるつもり、なかったんだけどな。



カーテンを開けてみる。窓の外は、どしゃ降りの雨。

何色もの絵具を塗り終えた筆を洗ったかのような、淀んだ灰色の雲から不透明な雨が窓ガラスを割る勢いで叩いていた。


天気まで最悪だと、よりいっそう憂鬱な気分になる。



「はあ……」



二度目のため息で、今日の分の幸せが失われてしまった。



顔を洗えば、少し目の腫れが引いたけれど、なかなか薄暗い顔色は血色よくならない。

やぼったい紺色の制服に着替えて、朝ご飯のいい匂いが漂う居間へ移動した。



「おはよう、莉子ちゃん」


「おはよう、おばあちゃん、おじいちゃん」



おばあちゃんとおじいちゃんに挨拶をしながら、ちゃぶ台の前に座る。お茶碗の中の白いお米から、ほかほかと湯気が立っている。


モヤモヤしたわだかまりを気にしながら、「いただきます」と朝ご飯を食べ始めた。



なんとなくテレビを一見する。朝の情報番組でのニュースで、とある政治家の話が放送されていた。小難しい時事問題を、これまた難しい単語を連発して語っている。


あの政治家の人、どことなく環くんに似てるような……。

って、ニュースでも環くんを思い出しちゃうってどういうこと!?



わたし、重症だ……。


またため息をつきかけたが、ハッとして口をつぐんだ。これ以上ため息をついたら、この先何も幸運が訪れない気がする。それは嫌だ。



「莉子ちゃん……元気ないみたいだけど、何かあったのかい?」



おばあちゃんはわたしを心配して、あまり箸が進んでないようだった。


おじいちゃんも新聞越しに、わたしを案じていた。先ほどから新聞のページが変わっていない。ましてや一ページの大きな見出しから視線がずれていないほどだ。



「じ、実は、昨日失敗しちゃったことがあって……」



途中で一度引き返そうと思ったけれど、友達でいていいか急かすように返事を聞き直すのは怖くて、足は家へ一直線に動いていた。


結局、今もなお、逃げたまま。

わたしってダメだな。