わたしは別れ際にもう一度依世ちゃんにお礼を伝えて、依世ちゃんと別れた。カランコロンと鈴の音を鳴らし、依世ちゃんの家である美容院を去り、帰り道をたどっていく。


空はオレンジ色と深い藍色のグラデーションに彩られていた。夕闇が迫ってきている。都会ではぼやけていた一番星が、こっちではこの時間から燦然と存在感を放っている。



すっかり遅くなっちゃった。

おばあちゃんとおじいちゃんには友達の家に寄ることを伝えてなかったから、心配してるかも。早く帰らなきゃ。



人気の少ない道を、早足で進む。心なしか足取りが軽かった。ローファーのかかと部分が、何の枷もなく、軽やかに跳ねる。



“あのときの少年”と会った小さな公園の近くまでやって来た瞬間、勢いよく風が横切った。切ったばかりの前髪をさらう。額が少し寒い。


その風に逆らうみたいに、風が吹いてる方向とは逆の方向に視線をずらす。



「あ……」

視界に入った公園に、ひとつの人影を見つけた。


あれは、環くん……?

こんな時間に、何してるんだろう。


無意識に足が公園へ動いていた。逆風に押されながらも、着実に近づいていく。



環くんは、桜の木の下で佇んでいた。



そう、この雰囲気だ。

環くん一人だけが世界に取り残されてしまったかのような、不思議な雰囲気がある。頭上でちらつく一番星のように、たった一人で輝くだけ輝いて、あっけなく流れ散ってしまいそう。


声をかけたくても、かけられない。


思わず後ずさると、バキッ、と足元に落ちていた木の枝を踏んでしまった。


その音に気づいた環くんと、目が合う。



「莉子ちゃん?」


「……ど、どうも」



反応に困って、他人行儀な挨拶になっちゃった。


うわあ、変な人って思われてたらどうしよう!