依世ちゃんの言いたいこと、わかるよ。


環くんは、時折、不思議な雰囲気をまとってるよね。

誰も近づくことのできない、大人びた雰囲気。



「話しかけたら返してくれるけど、絶対にこっち側に踏み込んでこないし」


「うしろで見守ってる感じ、だよね」


「そう、それ!」



一人でいるときの環くんは、ひどく透き通った眼差しで、遠くを眺めてる。


その姿があまりにも綺麗で、それでいて寂しげで。

いつも見惚れてしまう。



「だから、皆瀬くんに名前呼びされてる莉子は、特別なのかもね」


「へ……!?」



わたしが、環くんのと、と、特別!?


体温が急激に上昇する。
また一段とドキドキが騒がしくなった。



「あくまであたしの個人的な憶測だけどね~」



依世ちゃんは鼻歌まじりにハサミを置いた。細い指が丁寧にわたしの前髪を整えていく。



「お客さま、このような感じでいかがでしょう」


前髪のカットが終わり、わざと営業口調で尋ねてきた。


正面を真っ直ぐ見つめた。鏡に映るわたしは、長かった前髪を眉上まで短く切り揃えられていて、オンザになっている。

依世ちゃんと同じ前髪だ。



「気に入ってくれた?」


「うん、とっても!」


「よかったあ」


「ありがとね、依世ちゃん」



もう、隠せない。

隠さない。


開けた視界で、全てを見据えていく。