「だけど、まあ、あたしの女子力って手先が器用なところしかないからさ」
「そんなことないよ!」
「お世辞どーも」
あ、信じてないな。
お世辞じゃないのに。
本当なのに。
優しいところも、いつも気遣ってくれるところも、依世ちゃんのいいところであり立派な女子力だと思うけどな。
「その数少ない女子力を極めてやろうって考えて、美容師を目指してる以外にも、料理とか裁縫とかも趣味でやってるんだ」
「料理と裁縫まで?依世ちゃん、すごいなあ」
「自分の力を磨いていくのってすっごく楽しいよ」
生き生きとしてる依世ちゃんが、なんだかキラキラして見えて、眩しかった。すごいすごい、としかふさわしい言葉が見当たらず、最終的にはその眩さに呆けてしまった。
なんで特別キラキラして見えるんだろう。
いろんなことに挑戦して、突き進んでるからだろうか。
わたしも見つけたいな。
頑張り方も、本気で頑張りたいと思えるものも。
見つけたら、わたしもキラキラして見えるのかな。
暖かな風が止み、ドライヤーの盛大な音も一緒に止まる。
髪を乾かし終え、ついに依世ちゃんがハサミを持った。光沢のあるシルバーのハサミは、依世ちゃんの手には若干大きめ。切れ味のよさそうな刃の部分は、特に光を反射している。
「本当にいいんだね?」
「うん」
「バッサリ切るよ?」
「お願いします!」
わたしはそう託して、目を瞑った。緊張してしまって、目頭のほうにかけて瞑り方が固くなっている。
依世ちゃんの指が、額の上をかすめた。
あ。
切られる。
ジャキジャキ、ハサミが長い前髪を切っていく音が、耳の奥を通る。途端に緊張は解けた。
はらり、はらり。切られた髪が、時々顔の表面を滑るように落ちていった。シャンプーをしたばかりだからか、涼やかないい匂いが香る。
うっすら瞼を持ち上げると、景色がクリアに広がった。数分前とは、全く違う。
「どう?短い前髪は」
「……軽くなった気がする」
心も体も、全部。
重たい荷物を下ろしたみたいに、軽い。
すっきりした、新鮮な気分。