加速する鼓動の音は、苦しいのに、苦しくなくて。
でもやっぱり苦しくて。
この矛盾が、なぜかひどく心地いい。
たとえこれが最低最悪な不協和音だったとしても、きっと同じことを思っていただろう。
やっぱり、わたし、環くんのこと――。
「じゃあね莉子ちゃん、咲間さん」
「うん、またね環くん」
「バイバイ、皆瀬くん」
手を振って背を向けた環くんに、手を振り返す。
環くんの背中が見えなくなっても、心臓は締め付けられたままだった。苦しさは簡単に消えてはくれない。
「……ふーん」
「い、依世ちゃん?」
なぜか依世ちゃんがニヤニヤしながら見てくる。
その目は、何?
「そういうことだったんだ~」
「何が?」
「あとでゆっくり聞かせてもらうからね」
「だから、何が??」
頭上に「?」をたくさん浮かべてるわたしをよそに、依世ちゃんは詳しく言わずに一人で納得していた。
いくら聞いても「あとでね」と言って教えてくれないまま、靴を履き替えたあと校舎を出た。依世ちゃんの家へ向かう。
依世ちゃんの家は、学校から徒歩五分以内という驚きの近さ。
町で唯一の美容院ということもあり、毎日お客さんが来て忙しいが、その分繁盛しているらしい。
「そんなに忙しいのに、わたしの前髪を切ってもらっちゃっていいの?」
「もっちろん。あたしの友達なんだから、特別に優先!」
依世ちゃんは、当たり前のように即答した。
依世ちゃんの、そういう自分のしたいことを堂々と胸を張ってするところ。
わたしも見習いたいな。
「ここだよ、あたしの家」
依世ちゃんの家は本当に近かった。世間話もまともにできないほど。
昔ながらの二階建ての一軒家を若干改装した、和風な家。一階が美容院のようだ。
アンティーク調の外装や入口は、大正の洒落た雰囲気を醸し出しており、まるで別世界に来たよう。入口付近に飾られた、小さな白い花の効果なのか、ほのかに優しい香りがする。