あっという間に、放課後になった。放課のチャイムがいつもより陽気に聞こえたのは、わたしの気分のせいだろう。
前までは時間がもっと長く感じていたのに、最近は少しずつ早く感じるようになってきた。環くんと依世ちゃんと仲良くなって、だんだん日常が変わり始めてるんだ。
それってつまり、前に進めてる証拠だよね。
「莉子、帰ろ!」
「うん」
荷物を詰め込んだカバンを片手に、依世ちゃんと教室をあとにした。
最近は、教室にいるときよりも、廊下を歩いてるときのほうが、尖った視線で貫かれる。
バケモノだとか、不気味だとか。
そんな噂話も、わざと聞こえるようにささやいている。そうわたしが気づいてることも、きっと周りは知っている。
それらはおそらく、わたしだけじゃなく、わたしの隣にいる依世ちゃんにも嫌な思いを植え付けている。
不快感でいっぱいになってもおかしくないのに、依世ちゃんは嫌な素振り一つせずに、わたしと並んで歩いてくれている。
わたしと一緒にいるのを、やめないでいてくれている。
「ん?あたしのことじぃーっと見て、どうしたの?」
わたしのせいで、ごめんね。
そう言おうとして、やめた。
「ううん、なんでもない」
そうじゃない。
「ごめん」は、違うよね。
依世ちゃんは、わたしを周りの視線や噂から守る盾として、隣にいるんじゃない。
大事な友達だから、隣にいるんだ。
昇降口に着いた。
下駄箱前にいた環くんを見かけて、衝動的に声が出た。
「た、環くん!」
「あ、莉子ちゃん。莉子ちゃんも今帰り?」
「うん。環くんも?」
「ああ」
当たり障りない会話が、特別に感じる。