依世ちゃんのとは正反対の、目元が隠れるくらい長い、わたしの前髪。
周りの刺々しい視線を遮るために、伸ばしていた。
この前髪をサイドに流してピンで留めたり、短く切りそろえたりしようとは一度だって思わなかった。必要不可欠だったんだ。薄っぺらくても、邪魔になっても、自分だけの世界になるための壁が。
だけど、それはあくまで、今までの話。
今は、違う。
「邪魔かも」
吹っ切れた顔つきで、はっきりと答えた。ちゃんと本音を答えられた。
もう、隠す必要、ないね。
今のわたしに、壁は必要ない。
「……切ろう、かな」
指先で前髪をいじりながら、ポツリ、呟いた。
今のままじゃ、いくらなんでも長すぎる。これじゃあまたいつか、自分の世界に閉じこもりたくなってしまう。
すると依世ちゃんが食いついて、前のめりになる。
「それなら!」
「?」
「いっそ、オンザにしてみない?あたしとおそろい!」
急にテンションが高くなった依世ちゃんは、ハッとして、ゆっくり身を下げた。
「な、なんて、さすがに嫌だよね。オンザにするだけでも勇気がいるのに」
不格好な作り笑いをしながら、話題をそらそうと自分のお弁当のおかずを豪快に食べていく。
眉上の短い前髪が、瞼の上まで影を作ってる。
珍しく慌てふためいてる依世ちゃんの姿に、ふっ、と噴き出してしまった。
さっき依世ちゃんはわたしのことを可愛いって言ってくれたけど、依世ちゃんのほうが、ずっとずっと可愛いよ。
「箸、逆だよ」
「えっ、ウソ!?」
「ふふ、ホント」
恥ずかしがる依世ちゃんを、前髪の隙間から見据える。
もっと可愛い依世ちゃんを見たいのに、この前髪では明瞭には捉えられない。うん、やっぱり邪魔だ。
「なんか、依世ちゃん見てたら、オンザもいいなって思えてきた」
「……う、ウソ」
「ホントだよ」
弱虫な自分を変えようと、形から入るのも悪くないよね?
前髪を依世ちゃんとおそろいにしたら、依世ちゃんみたいな真っ直ぐな自信を得られそうな気がする。